「映画をきっかけに二世問題がもっと議論されてほしい」星の子 SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
映画をきっかけに二世問題がもっと議論されてほしい
新宗教の二世を主人公にした話。社会問題としてとても大きな問題だが、メディアではなかなか取り上げられない。しかし、この問題に苦しんでいる当事者は相当な数で存在するはずだ。もっとこの問題が広く知られて、議論されれば良いと思う。
一世は信仰への強い動機、そして体験があるが、二世は無い。しかし生まれた時から宗教教育を受け、倫理観、常識、善悪の基準、そして自身のアイデンティティがもはや信仰と切り離せなくなっている。
そのため、二世は信仰への疑問が生じた場合、非常に苦しむことになる。信仰に離反することへの罪悪感と恐怖、そして家族や友人、コミュニティからの断絶を覚悟しなければならない。
主人公の姉のように家族と別れる決断をするものもいれば、積極的な信仰をせずに形だけ信者のままでいることを選ぶものもいるだろう。
終盤で家族と離れ離れになってしまい、不安にかられながら母親を探す主人公の心象は、信仰に離反すれば家族と会えなくなる、ということに加えて、自身のアイデンティティや心の拠り所を失ってしまう、という不安感も表しているように思う。
また、家族で流れ星を探すシーンでは、もはや家族で同じものを見ることはできない、しかし見ることを願わずにはいられない、という切なさを表しているようにも思う。
しかし、そうした宗教が引き起こす断絶を描いていながらも、家族の愛は不変である、というメッセージもあり、それが救いになっている。
この映画が秀逸だと思うのは、新宗教を一面的に悪いものだとはしていない点だ。科学的にはおかしいものたとしても、それを心の拠り所にして生きている人々も描いている。
また、新宗教を単にインチキだとして乱暴な態度をとる側(おじさんや数学の先生)も、実は自分の側が絶対に正しい、として相手への想像力に欠けている点では、強情な信者と変わらなかったりする。
信仰する者は信仰しない者への、信仰しない者は信仰する者への想像力を働かせ、お互いに尊重する態度が必要なのだろう(宗教の内部にいる人はそれができないから難しい、という話でもあるのだが…)。