「老後の資金はなくても…」老後の資金がありません! 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
老後の資金はなくても…
『護られなかった者たちへ』は震災×生活保護の社会派作品であったが、何の何の、こちらだって!
ひょっとしたら、『護られなかった者たちへ』より我々にとって身近な問題。
お・か・ね。
あなたは今の生活は安定し、老後も不自由なく暮らせますか…?
私ははっきり言える。
ノー~!(>_<)
老後の資金に約2000万円が必要と言われる現代。
でもそれは、一人が何も贅沢せず、子供や親の仕送りもせず、病院費とかいずれ迎える葬式費とか、全部排除した金額。
人生これから色々やってく上で掛かる費用をプラスしたら、その倍以上は掛かるという…。
さ~て、宝くじでも買いに行くかね…と、現実逃避したくなっちゃう。
人間ってホント、金食い虫。
これ、ライトなコメディだから面白いのであって、シリアス・ドラマだったらチョー悲惨。
平凡な主婦、篤子。生活もごく一般的…と言いたい所だが、
ローンの残るマイホーム。冴えないサラリーマンの夫の章と、フリーターの娘まゆみに成人になったばかりの息子・勇人。
唯一の贅沢…いや、息抜きはヨガ教室(月謝5000円)くらいで、いつも見つめるブランドバッグも我慢し(9万也)、夕食も安く作れる豚もやし鍋が定番で(ちょっと美味しそう)、家計の足しにパート働き。
コツコツ貯めた貯金の総額は…、
700万…。
最低限の老後資金の1/3。平穏な暮らしや老後に必要なその倍以上になんて、とてもとても…。
毎月出ていくお金の額を見るだけでも溜め息しか出ない。
これ以上の出費を抑えなければ…!
…と言ってる傍から、マネー・ピンチが襲い来る。
義父が亡くなり、葬式。夫の妹夫婦から、これまで両親の面倒(施設代など)は私たちが見てきたんだからと、葬式代全額負担する事に。義母からも、老舗経営者の葬式として恥のないようにと釘を刺される。膨れ上がっていく葬式代。頼みの綱は大勢の出席者が予想される香典であったが…、大誤算。出席者は少なく…。結果葬式代で、マイナス400万也。
貯金が一気に半分以下に…。
もうこれ以上の出費は…。
そしたら、娘が突然の結婚宣言。相手は売れないバンドマン。フリーターと売れないバンドマンのくせに、相手の餃子名店のご両親が世間体を気にして、著名人御用達の会場での式を計画。費用は600万。両家折半でも300万也。娘は可愛いけど、男のセンスと現実的な考えがなっちゃいねぇ…。
本当にそんな結婚式挙げたら、ちょ、貯金が…。さらに追い討ちをかける事態が…。
パート契約満了。失職。
夫の会社が突然倒産。退職金も出ない。
50代夫婦共に失職して、ローンの残る持ち家で貯金300万…。
次から次へと襲い来るマネー・ピンチ。も一度言うけど、ホントこれ、コメディだから笑えるけど、シリアス・ドラマだったら鬱映画…。
これで終わりじゃなかった。
最大のマネー・ピンチ、来る…!
夫婦揃って失職した事により、義母への仕送りが困難に。夫の妹と口論。
そこで言い出しちゃったのが、義母と同居します!
でもでもよく考えてみれば、寧ろプラスになるかも…?
仕送りはしなくていい(9万)。義妹夫婦は引き続き仕送りする(9万)。おまけに義母の年金も入る…。
やった! 同居万歳!
ところがどっこい、義母はトンデモな金食い虫だった…!
お茶は数千円の高級茶。今日夕飯は私が作ると言い出したと思ったら、すき焼きの肉は2万円超えの高級和牛。ランチの奢りも数千円。…
カードで楽々支払い。あれよあれよと呆れる超浪費家。
入る金額より、義母が来てからの出る金額の方がデカい…。これじゃあ以前以上のマイナス…。
ある時、義母にオレオレ詐欺の電話が。まだまだ惚けておらず、そんなものには引っ掛からない!…と思っていたら、相手の手口は巧妙で被害に。娘の相手のご両親からの結納金100万円が…。
お義母様、いい加減にして下さい!!(#`皿´)
キャストが魅せる軽快なコメディ演技。
天海祐希はさすがのコメディ・センス。宝塚は無理な自虐ネタ。シリアス作品やカッコいい役柄よりハマり役。でも今回は笑わせるばかりじゃない。主婦の悲哀。主婦はつらいよ。
穏やかだけど、頼りなくて家計に無頓着。松重豊がリアル過ぎて絶妙。ある時ついつい朝帰りする事になり、電話で「あ、私です…はい、はい…申し訳ありません…はい、はい…」なんて、メチャ笑っちまったよ。
若村麻由美の気の強い義妹、竜雷太と藤田弓子の実両親のウザさ、主婦友・柴田理恵のいるいる感。欲を言えば、新川優愛ちゃんをもっと見たかったなぁ…。
お笑い芸人のゲスト出演は引っ掛かったけど、ビッグなサプライズゲスト出演は愉快。三谷幸喜もさることながら、毒蝮三太夫。最近『シン・ウルトラマン』に備え『ウルトラマン』を見返していたので、アラシのご健在っぷりが嬉しい。
だけど本作の土壇場は、やはりこの方。
草笛光子。
浪費家の義母役で場をさらう。色んな意味で。
もうその困った金食い姑ぶり。
浪費してもオレオレ詐欺に引っ掛かっても、悪びる様子ナシ。
実際だったらこちらが倒れるくらい疲れるお義母様なんだけど、若々しく元気で、気品があって、何故か憎めない。男装姿に、あるシーンのビデオ映像で超絶美人の若かりし姿や歌声まで披露の出血大サービス。
そして最後は勿論、ハートフルや感動も魅せてくれる。
また個人的に、毒蝮との共演はビッグで得したレア気分。
近年も映画やTVドラマでご活躍されてるようだが、その中でもベスト・オブ・ベストでしょう。
ドキュメンタリータッチの人間ドラマ、感動作、コメディと才を発揮する前田哲監督。
本作では見事なコメディ演出を披露。
実は、予告編の印象では漫画チックなおふざけコメディと思っていたが、笑いの中にテーマ性やメッセージ性も加味。
お金の問題は勿論、オレオレ詐欺やシェアハウス。
現代的な視点で、どんな人生これからを迎えるか、案外考えさせられる。
嫁姑バトル。でも一緒に暮らしていく内に…。
突然言い出した生前葬。ネットで調べた見積りに、篤子はまたまたおかんむり! 出席拒否。
浪費家の義母による生前葬。どんな盛大で金が掛かるかと思ったら、無償の会場、料理も出席者たちによる手作り持ち込み。全くと言うほど費用は掛からず。
その生前葬で、本心を告白。
浪費癖は夫が亡くなって、その寂しさを紛らわす為に。鬱憤晴らしになるかと思いきや、寧ろ虚しい。
夫の後を追って死にたいと思った事も…。
そんな時、一緒に暮らしていいと言ってくれる人が現れた。
生前葬をしたかった理由は、生きてる内にお世話になった人たちに感謝を伝えたかったから。
中でも一番感謝を伝えたかった人がいるけど、残念ながら未出席。
誰?…と、いちいち言う必要もないだろう。
私の相棒に。
義母が選んだ新たなこれから。
夫の再就職。人生再スタート。
そして夫婦の選んだセカンド・ライフ。
そのセカンド・ライフは賛否あるかもしれないが、それを肯定も否定もせず、こんなこれからもあると提示。(何か、良さげな感じだった)
どれもこれも、人の縁。
老後の資金はないけど、人の縁はあります。