「老後ではなく変化する日常」老後の資金がありません! U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
老後ではなく変化する日常
劇中の夫婦よりは若いが、ほぼ同世代故なのか…笑えない箇所が多数あって慄く。
相続やら結婚やら、退職やら物欲やら…冒頭、感じたのは「やべえ…地雷踏んだ」だった。
なのだけど、必ずのしかかってくる問題しか提議されておらず、それらに潰されそうになる人生ってななんなんだろうと、悲しくなる。
間違いなくコメディで、ファーストシーンから芸人さんまで配置してるにも関わらず、全く笑えない状況。
…個人的な理由でしかないわけなのだけれど。
だけど、まぁ、作品としてはよくまとまってたと思われる。現実と切り離すのが至極難しくはあったけど、三谷幸喜さんと草笛さんに助けられたと思ってる。
三谷さんのキャラは正直やり過ぎなんだけれど、作品とのコントラストとして非常に秀逸だった。
「笑う」って衝動が自然と湧いてきた。それまでは、いつ笑えばいいのだろうと凹んでた。
そして草笛さんのウインク。
とてもチャーミングで素敵だった。
主演の天海さんを筆頭に、芝居巧者が集まった本作は、コメディとしての大前提を全くぶらす事はなく良作だと思える。
一応、タイトルへのアンサーも用意してくれてるし。
劇中の夫婦の選択は一例であり、シェアハウスにはシェアハウスなりの問題もあるかと思う。
それだけではなくて、海外に移住する人や、田舎暮らしを始める人、選択は様々だ。
この作品を見てなんとなーく思うのは、老後は老化であるのは間違いないのだけれど、それ自体は変化であって悪しきものではないんじゃないかって事だ。
その変化を容認したくない意識こそが悪しきものなのではなかろうか、と思う。
変化し、未知の世界が広がる恐怖なのかもしれない。
出来てた事が老いにより出来なくなる。
そこを受け止めきるかどうかなのだろう。
尚且つ、それを楽しめるかどうかなのだろう。
死別によって1人になる。
その変化を受け止めるかどうか。
心配しなくても、人はいずれ死ぬ。
どう足掻いても老いは来る。
…その認識なのだと思われる。
彼らは変化を楽しめてたように思う。
幸運も不運も不意に訪れる。
要らないと拒否できないし、懇願しても舞い降りない。目の前こ事に懸命にならざるを得ないのが人生の本質なのかもしれない。
そんな中の箸休め。
赤い鞄を手にする彼女は、幸せそうだった。
と、おとぎ話で締め括るのではなく、きっちりお金の話としてまとめた本作。
彼らは1400万円程の老後の資金を手にしている。
ま、これも一つのオチなのかもしれない。