「ロールモデルを目指す覚悟と努力、そして代償。」幸せへのまわり道 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
ロールモデルを目指す覚悟と努力、そして代償。
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フレッド・ロジャースという全米では知らない者はいないというオジサンのことをこの映画で初めて知った(その後伝記ドキュメンタリーは観た)。長寿子供番組のホストであり、映画も子供番組の体で始まる。まず街のミニチュアが映り、トム・ハンクス扮するミスター・ロジャースが撮影スタジオのセットに入ってくる。何十年と繰り返されたお決まりの仕草を再現するオープニングから、ちょっとおかしな匂いが漂っている。
このアメリカの名士の取材をすることになったやさぐれ記者が、ロジャースの影響で変わっていく、というのが本筋なのだが、本作の凄みを体現しているのは、助演的存在のハンクスの方だ(ラストも彼が締めるのだから主演と言っていいと思うが、アカデミー賞では助演男優賞にノミネートされた)。
ロジャースの作り上げた子供番組の世界は、完全に子供に向けた作り物に見えるのだが、主人公の記者は、それだけでは収まらない何かを感じ取る。癒やしと解放の感動ストーリーではあるのだが、他人を癒すほどの立派な人間であり続けるには、実は恐ろしいほどの努力と葛藤が水面下で渦巻いていることを、この映画はしっかりと描いてしまっている。
美談ではあるが、『ハクソー・リッジ』にも似た、狂気に近い美談であると、ラストの“音”で教えてくれる。背筋がゾッとするような、とんでもないものを観てしまった。
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