劇場公開日 2020年3月14日

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「「自然は完璧」を具現化した映画」ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方 といぼさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5「自然は完璧」を具現化した映画

2020年9月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

秋田県大館市にある東北地方唯一の単館常設映画館「御成座」にて、この作品を鑑賞してきました。
昔ながらの手描き看板や趣のある建物など、雰囲気の抜群に良い映画館ですので、是非一度は訪れて欲しい場所です。駅から徒歩2~3分程度の立地ですので、アクセスも良いです。

とまあ、映画館の紹介はこれくらいにして、映画の説明です。

結論から言うと、めちゃくちゃ良かった!!
こういうドキュメンタリー映画は今までほとんど鑑賞していないジャンルなのであまり観慣れていないのですが、全ての映像が作り物では出せないリアリティを持って映写されていますので、迫力があります。自然の連鎖と繋がりを観る事ができ、監督撮影を行なったジョンによるハンディカメラの映像が、まるで観客である私も農場の一員として、果樹や動物たちに触れ合っているかのような没入感を生み出します。匂いすら錯覚させる圧倒的なリアリティ。それがこの作品の魅力です。

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自然を愛する夫婦のジョンとモリー。「究極のオーガニック農場を経営する」という夢を持っていたが、なかなか今の生活を捨てて未経験の農業に手を出すことができなかった。
しかし、保護犬のトッドを飼い始めてから状況は一変。吠え癖のあるトッドの騒音が近所迷惑だとマンションを追い出されてしまったのだ。ドッグトレーナーに預けてみたり、犬を落ち着かせるグッズを試してみたが効果は無く、引っ越した先でもまた苦情が寄せられるようになってしまった。
そんな時に「オーガニック農場を経営する」という夫婦の夢を思い出した。広大な農場ならば近所迷惑になることは無い。愛犬トッドとのびのび生活するため、夢の実現に向けて夫婦は動き出すのであった。
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一匹の犬が、一組の夫婦の人生を変えた物語。理想の農場を目指して資金調達を行い、志を同じくする伝統農業のプロフェッショナルのアランと共に、枯れ果てた郊外の土地での農業が始まります。

彼らが目指すのは「多くの作物・多くの家畜たちが自然と共存し、農場の中で自然のサイクルが循環するような農場」。それは一般的に行なわれる一つの作物のみを作る単作農業でもなく、またビニールハウスで保護されたような管理農業でもない。いくつもの作物と何種もの家畜をほぼ自然の状態で育てるという農業モデル。正直、誰の目から見ても「無謀だ」と分かります。

しかしその無謀な農業に挑んだ一組の夫婦と・一人の専門家と・一匹の犬。
序盤は専門家のアランと、インターネットで募集した若者たちの力を借りてどんどん不毛な土地を開墾していき、乾いた土と生い茂る雑草に埋もれていた土地も見違えるような緑の土地へと変貌を遂げます。

序盤はトントン拍子に農業が良い方向へと転がっていきますが、中盤あたりから雰囲気は一変。コヨーテによって鶏が捕食され、カタツムリによって柑橘類の木は荒れ、プラムの実は野鳥の餌となり、被覆植物はホリネズミによって枯れ果てる。序盤の流れが嘘のように、何をやっても上手くいきません。
本来ならば建物の中やビニールハウスに動植物を入れて徹底的に管理するのがセオリーでしょうが、彼らが理想とする「伝統的な自然農法」に反するので、それらの対策ができません。自らの理想が重い重い足枷となります。

理想を追い求める夫婦が、厳しい現実にぶつかったときにどのような行動に出るのか。

監督・主演・撮影を務めるジョンは、カメラマンとして働いていただけあって絵作りが非常に上手いです。序盤のホームビデオ的に撮影しているシーンから、既にカメラの角度とか画角がしっかりしています。

ストーリーの構成も上手い。映画全体でキッチリと起承転結が出来上がっているように感じました。多少の演出や脚色はあるのでしょうが、ドキュメンタリーとは思えない、まるで小説のように物語が進行していくのは見応えがありました。物語の最初に山火事のシーンを持ってきたのも、個人的には上手い構成だったと思います。

最後に圧倒的な映像美。農場が出来上がるまでの実際の映像。広大な農場の映像。元気に動き回る動物たち。自然に生きる昆虫や野生動物や野鳥などなど。8年間自然の中で生活し、撮影を続けてきたジョンにしか撮れない映像だったと思います。

たった91分の映画の中で自然の循環を体験し、多くの感動が得られる。本当に素晴らしい映画だったと思います。オススメです!!

といぼ:レビューが長い人