「ステップしていく笑顔工場」ステップ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ステップしていく笑顔工場
もはや若手ではなく名実と共に日本映画界を代表する実力派として、難役や圧倒的な存在感のクセある役や個性的な役をこなしてきた山田孝之が、初めてとも言える役に挑戦。
シングルファーザー!
30歳で妻に先立たれた健一と、まだ幼いその娘・美紀。
支え合い、悲しみ、喜び、新たな幸せ…共に歩み始めた父と娘の10年間。
いやもう、良作!
展開は章分け。
2009年から。妻が亡くなって1年。2歳になった美紀と二人三脚のスタート。育児と仕事に悪戦苦闘。娘のちょっとした変化にも気付かず…。これから先、やっていけるのか…?
小学生になると、美紀は快活で利発な女の子に。健一も時々タジタジに。でも、それが嬉しい。…が、ある母の日。母の絵を描く事に。母の顔を知らない美紀はつい嘘を付いてしまう…“ママはずっと家に居る”と。果たしてそれは嘘なのか…? 母の絵をどうするかで悩む…。
小学校高学年。気付けば、健一が妻と過ごした歳月よりも遺影に向き合う方が長くなってしまった。10年も経つと、健一にも新たな出会いが。会社の同僚・奈々恵。美紀も誘って会食するが、どうも美紀は奈々恵の事が…。以来、父娘の関係すらギクシャクし始める。
初めての大きな親子の問題に、健一は…。
ジャンル的には心温まる家族ドラマ。
そこに、単にそれだけではなく、シリアスな悩みやユーモアが絶妙にブレンドし、それがいい。とってもいい。(←思わず心の声が漏れてしまった(笑))
家族ドラマだからこそ映える日本の四季。
健一と美紀が毎朝通る通勤/通学路、当初は「?」と思った壁の赤ペンの線…何度も映る場所や物が、二人にとってかけがえのない日常と歳月を物語る。
『笑う招き猫』『大人ドロップ』も良かったが、飯塚健監督のベスト作ではなかろうか。
武骨な役でもない、借金の取り立てもしない、非エキセントリックではないナチュラルな佇まい。山田孝之がさすがの好演。
娘役も巧くなくてはならない。成長に合わせて子役3人が演じ分け。2歳を中野翠咲、6歳~8歳を白鳥玉季、9歳~12歳を田中里念。中でも、最近売れっ子の白鳥が少々ませっこな感じも含め巧い。学校で母親が本当は死んだ事をクラスメイトに問い詰められて反論するシーンはグッときた。
保育園のケロちゃん先生・伊藤沙莉、母の絵の時協力してくれたカフェの妻似の女性店員・川栄李奈、新たな出会いの奈々恵・広末涼子…皆、周りが居て、物語に深みが増す。
健一の義理の両親役の國村準と余貴美子。
健一と奈々恵の関係を後押ししたり、健一を実の息子のように思いやったり。
特に義父の「君は俺の息子だ」の言葉には胸熱くさせられる。
美紀との関係に悩み、打ち明けた時の、初めての“親父の説教”もこれまた…(涙)
遂にこの義父が病に倒れてしまう。
それからはこの名優・國村準が見せ場と感動を一人占め。…いや、“親父”らしくしっかり家族の中心に居た。
終盤、“家族”になった奈々恵へに「孫と息子を頼んだぞ」の台詞には涙腺崩壊!
義父、健一、美紀…。
三世代の家族を紡ぐ。
思い通りにいかないのが人生。
が、やり直し利くのもまた人生。
急がなくてもいい。
ゆっくりゆっくり、少しずつ。
“笑顔でいられる工場(=家族)”と共に。
エンディングの秦基博の主題歌も温かく包み込んでくれる。
しかし! これはまだ第1のステップに過ぎない。
ラストの台詞で健一が危惧した第2のステップ=思春期編なんかも見てみたいなぁ…。