劇場公開日 2020年7月17日

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「子育てはこんなに周りが善人しかいなくても大変なんだ」ステップ わたろーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0子育てはこんなに周りが善人しかいなくても大変なんだ

2020年7月23日
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重松清の本は好きでよく読んでいるのですが、この原作は未読でした。設定だけ見ると「ただのお涙頂戴ものだろう」と個人的にはスルーしてしまいそうなものだったのですが、『mellow』や『テセウスの船』での好演が記憶に新しい白鳥玉季ちゃんの演技は金を出す価値ありと思い鑑賞しました。まんまと泣かされました(笑)

先に違和感を感じたところを処理しておくと、自分は子どもと関わる仕事をしているので、子どもや親のある程度リアルな世界を知っているつもりなのですが、白鳥玉季ちゃん演じる小学1年生~3年生が言うには大人びたセリフが多すぎました。保育園時代もそうです。初めて行く保育園でお父さんが「よし行こう!」と言ったら自分で靴を履き出したり、保育園の先生にすぐ虜になったり…というのはなかなか考えにくい、その部分だけリアルさからかけ離れてしまっているように思いました。もちろん、父親に心配をかけるまいとしているという設定なのは十二分に理解しているつもりです。

ストーリーの展開については非の打ち所がないくらい素晴らしかったと思います。シングルファザーとしての「第一は自分の子ども」「でも仕事もしなければ」という葛藤に悩むシーンや、新しい母親を招くことへの娘や家族に対する葛藤の描き方がすごく丁寧で、要所要所のモノローグが感情移入を自然に誘う見事な構成でした。

小学校低学年を演じた白鳥玉季ちゃんが本当に素晴らしい。特にとある授業に向けて家で練習をしているシーンの表情は圧巻です。残りの二人の子役も頑張っていたと思います。小学校高学年を演じた田中里念ちゃん、どっかで見たことあると思ったら『恋は雨上がりのように』だ!どことなく藤田ニコル感が増したような気もしました。良かったです。

この映画を観て一番に感じるのは、周りが主人公の父親に対してかなり理解があること。職場の人たちはシングルファザーをバックアップする体制がとれている。亡くした母親の家族は、次の恋愛へ進む主人公に対しても「君の人生だから」「息子のようなものだから」と背中を押してあげている。そして何より子どもが大人びている。こんな状況でも大変で葛藤を繰り返すのが子育てなのだと再確認しました。これは両親健在だからとかシングルだからとかではなく、子育ての尊さを実感させられました。

通学路の見え方が子どもの成長に合わせて変わっていく演出や、家族関係と成長することの脆さを表してるように見える「目玉焼きの半熟」のくだり、卒業式直前のシーンなどで何度も涙腺がくすぐられました。何より主題歌がかかるまでのラストカット、"子どもは大人の想い以上に先立って成長しているんだ"ということをバックショットで示しているのが最高でした。

もし自分も家族を持つことになったときは、また違った感情をこの映画で得ることができるのではないかと見返すことが楽しみになる一本でした。全世代におすすめです。

わたろー