「本作は1960年東宝特撮の「太平洋の嵐」を裏返したものです」ミッドウェイ あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
本作は1960年東宝特撮の「太平洋の嵐」を裏返したものです
ミッドウェイ海戦を描いた映画は過去にもあります
代表的なものは3つです
まず、1976年のチャールトン・ヘストン主演のミッドウェイが挙げられます
山本五十六は三船敏郎が演じています
そしてもちろん日本にもあります
東宝特撮で1953年の太平洋の鷲と、1960年の太平洋の嵐
この2作品を挙げることができます
山本五十六を、前者は大河内伝次郎、後者では藤田進が演じています
その他にもまだまだありますが、主要な扱いではなくミッドウェイ海戦を描く時間もごく短いので割愛してよいと思います
では本作はその3作品の中でどの作品に一番近いのか?
それとも全く違うのか?
本作は1960年東宝特撮の「太平洋の嵐」を裏返したものであると思います
まず、1976年版のミッドウェイ
この作品は戦いのあらましを公平な視点で描いているのは本作と同じです
戦闘シーンは太平洋戦争の色々な記録映像や1970年のトラトラトラの映像、日本の東宝特撮の戦争映画の映像を取り混ぜて、少し米軍空母の実物映像を足して構成されています
次に1953年の太平洋の鷲
これは白黒作品ながら、最も詳しく海戦の推移をサスペンスを盛り上げて描いています
海戦そのものだけなら本作が一番でしょう
初代ゴジラの1年前の作品です
監督は本多猪四郎、特撮は円谷英二なのです
特撮はそんな昔であるのにかなり頑張っていることにびっくりされると思います
赤城の実物大セットと、米軍提供の実際の記録映像や、戦時中の日本の戦意高揚映画での日本軍機の本物の飛行映像が組み合わせられて効果を上げています
そして1960年の太平洋の嵐
カラー作品です
房総半島の海岸に実物大の空母飛龍のセットを作り、飛行甲板にはこれもまた実物大の艦上攻撃機のセットが何十機も整列してプロペラを本当に回しています
飛行甲板の向こうに見える水平線は本当の太平洋です
本作の実物大の空母ヨークタウンのクォリティーに全く負けていません
日の出前の払暁の薄暗い中、艦内からハッチをくぐり抜けて舷側のキャットウォークを主人公が歩いて飛行甲板に登る長回しのカットなどは、60年も昔の作品なのに、21世紀の本作を凌駕しているシーンです
海戦の推移も詳しく描かれますが、飛龍の視点に寄せているので海戦全体の展開を俯瞰しないので、ハラハラドキドキ感は1953年の太平洋の鷲の方が優れています
この視点の寄せ方が本作と似ています
米軍空母ヨークタウンの搭乗員の視点でより寄せているのです
つまり本作は裏返しの太平洋の嵐なのです
なので海戦全体の展開を微に入り細に入り知りたい、もっと丁寧に描いて欲しいという向きにはもの足らないのかも知れません
それを期待するなら、東宝特撮の太平洋の鷲を観るべきです
本作はより個人的なそれぞれの視点から捉え直したミッドウェイ海戦であるのでこうなっているのです
特撮は、CG による素晴らしい実在感のある空中シーンのような惚れ惚れするシーンもあれば、ド派手なだけの劇画的なタッチになるシーンもあります
しかし総じて大いに満足できるものです
飛行機や艦船が密集し過ぎていると軍事オタクの皆さんのご指摘はごもっともですが、映画ですのでこの程度はやむを得ないと思います
望遠による圧縮効果だと飲み込みましょう
むしろ距離を取っているほうです、
もっと酷い距離感の何もわかっていない戦争映画は山ほどあります
空を覆う対空砲火の爆煙の表現は最高のものでした
軍事オタクからすると軍事考証で気になる箇所は幾つか散見されるののの、白けてしまうような致命的なものは有りません
頑張っている方と思います
米海軍がかなり日本艦隊にびびっている描写が本作の目新しいところです
これは米側の資料でも実際の取材から明らかになっていることです
ここが1976年版のミッドウェイとの大きな違いと言えると思います
その資料が紹介されていた本の題名は失念しましが、和訳も
ででています
暗号を解読して待ち伏せに出撃するのですが、米艦隊の指揮官達は全く勝てる気がせず陰々滅々な気分だったとありました
とにかく日本艦隊は当時最強のチャンピオンだった
いつどこに敵が現れるのか分かったところで、自分の死ぬ時と場所を知らされたようなものだと彼らは述べた、とその本には書いてありました
中国資本が入っていることで、反日要素があると言われる向きもあるようですが、そんなことはないと思います
日本人にはばつの悪い残虐なシーンもあります
しかし実際にあったことですから致し方ないものです
ドーリットル爆撃隊が中国大陸に逃れ落下傘降下で脱出したあとのシーンを怪しからんとする向きも多いようですが、あれは中国共産党である八路軍の兵士ではなく、その後台湾に逃れる事になる、中華民国の兵士だと見做せばどうでしょう
史実でもドーリットルはあのあと蒋介石に晩餐会に招かれています
つまりドーリットルと中国人との握手は、米国と台湾の握手であったのだと解釈するべきなのです
もっと言えば、序盤の大本営の会議に注目すべきです
天皇陛下の席が空席になって撮影されています
これには意味があると思います
天皇陛下は軍の統帥権を持つけども実際はこうで全く戦争指導には関与していない
だから戦争責任は問えない
そう説明しているシーンだと解釈しました
全体としてみれば、本作は反日映画には全くあたらないと思います
確かに日本軍の軍事行動の中には、眉を顰めるような部分も描かれています
しかし、それは戦争とはそのような事になるものだ
戦争の狂気が人間を狂わせてしまうのだというトーンです
日本人だから残虐なのだという視線ではありません
むしろ観終わった後の印象は
このように死力を尽くして日米の大艦隊が激突して戦ったのも、もう80年も昔のこと
全て恩讐の彼方に去ったのだ
我も頑張った、彼も頑張った
そのような想いです
21世紀の現代、またも戦雲が巻き起こりそうな雲行きです
しかしこの戦いから80年後の今は、この日米という世界最強の海軍が、太平洋からインド洋まで共に艦隊を並べるようになったのです
つまり、これに挑戦するのは無謀だという、米国がハリウッドを使って発しているメッセージに見えるのです
冒頭の雪の清澄庭園のシーンは、二二六事件の暗示であったり
序盤の無茶な着艦訓練が、クライマックスの着艦シーンとつながっているなど、さすがハリウッドという練られた脚本の冴えも光ります
ジョン・フォード監督が登場して、まさかのコメディリリーフとはびっくりです
これ史実です
劇中で撮影していたフイルム、しかもカラーは、その後、実写の戦意高揚映画となったのです
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