「身体の自己決定を奪われるということ」一人っ子の国 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
身体の自己決定を奪われるということ
本作の監督は、一人っ子政策時代に生まれた。成人後、アメリカに移り住んだ彼女は子どもを授かり、祖国では一人っ子政策の終了がアナウンスされ、あの時代のことを調べようとする。
次々と衝撃の事実が明るみに出てくる。監督には弟もいたが、そのことでいじめられたと言う。さらには、親戚には子どもを捨てた者がいた。強制的に病院に連行され、不妊手術を受けさせられた女性も数多いという証言が飛び出す。道端に赤ん坊を置き去りにすることも珍しくない時代だったと言う。さらには、二人目の子どもを生んでしまった家庭の子どもを海外の養子縁組に出す組織も存在していた。しかも国家の役人もそのビジネスに絡んでいたという。
生き別れになった双子の姉妹が、SNSを通じてつながるシーンは感動的だ。しかし、その背後には多くの悲劇がある。ウイグル自治区でも非人道的な不妊治療が行われているという報道もある。一人っ子政策が終わっても中国は変わっていないのかもしれない。
アメリカに暮らす監督は、アメリカの一部で導入されている中絶禁止についても触れる。女性が自分の身体を自分で決められないという点で一人っ子政策のひどい実態を何が違うのだろうかと問う。中国でもアメリカでも、国家に翻弄される命がある。
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