「ヒーローの変遷」リチャード・ジュエル parsifalさんの映画レビュー(感想・評価)
ヒーローの変遷
西部劇での名無し殺し屋→カウボーイ→ダーティな刑事という強いマッチョなヒーローから、自分の中の暴力性に悩むヒーロ―を通過し、市井のごく普通に生活する人たちの英雄的な行為こそが真のヒーロ―だっていう辺り、「七人の侍」に通じるものがある。
この「リチャード・ジュエル」も、肥満、容姿もいいと言えない、仕事も警備員と冴えない青年が主人公。それでも、人を守る仕事をしたいと、周囲から馬鹿にされながら、警察官(現代の保安官)になることを夢見て、日々精進することを怠りない。そんな、人物がアトランタオリンピックの記念公園に置かれた爆弾を発見し、群衆を避難させるのだが、第一発見者で、怪しい部分が見つかって、容疑者として報道されて、FBIにも重要参考人として取り調べを受ける。
イーストウッドは、この物語で、政府とマスコミが、巨大な権力を持っていると描いている。多少、事実を脚色しているのかもしれないが、よくある爆弾犯人の人物像とジュエルを取り調べること出てきた特徴が重なるということ、先に捜査情報がジャーナリストからリークされ、どこもが特ダネを狙って、FBIはメンツがつぶされたっていうことが、誤認に繋がった理由か。最後、母がスピーチをするシーンと、ジュエルが取り調べに応答するシーンが、演出過剰でなく、真に迫っていてよかった。
自分は、利害関係やら欲得が絡んで、マスコミが報道することなんて、信じられないというのが現代の標準だと思っている。安倍首相関連の政治問題、暗殺事件、ウクライナ戦争に新型コロナウイルス感染症まで。かといって、ネットの情報も玉石混交。何が真実なのか、本当にわからない時代になってしまった。
正義って何か?国や宗教、利害関係が違えば、正義は異なってくる。そんな時代に、今、私たちは生きているって自覚したい。