「島本作品に通ずる問題提起をつぶさに拾った素敵な作品」ファーストラヴ 古元素さんの映画レビュー(感想・評価)
島本作品に通ずる問題提起をつぶさに拾った素敵な作品
島本理生作品の熱心な読者として鑑賞。圧巻の一言だった。島本作品全てが持つ問題の提起「女性が無意識のうちから男性に傷つけられていること」を忘れることなく、ひたすら原作に沿った内容だったように感じる。
出演者全ての演技が素晴らしかった。環菜の情緒不安定さを丁寧に掬い演技に乗せられていた。由紀が過去の思いに苦しむ場面は何とも生々しく、観ているこちらも胸を締め付けられた。それを受け止める我聞。自らの兄である我聞を信じるように由紀に薦める迦葉。由紀や迦葉の話を聞く途中に怒りが止まらない環菜の母。それぞれの迫真の演技から、今まで個人的に描いていた「実写化は原作に劣る」というイメージを払拭させられた。
今回大きなテーマとなった「親子の在り方」であるが、メインである環菜とその両親はもちろん、個人的に心打たれたのはそれに強く影響され自らを顧みる由紀であった。二人に共通する「男性は性行為をするために女性に近づく」という認識、個人的にも同感だったからであろう。男性の性的な視線、特に自らの父親から伝わる「普通の親子とは異なる視線」を経験している人間が多いことを、この作品を通して知ることができた。それにより苦しむ人間が多いことを、世間の男性らは知らねばならない。
「つらいことを無理矢理いい思い出みたいにして、苦しまないようにすることで逃げているんじゃないの(曖昧)」由紀のこの台詞が印象的であった。人間皆苦しい経験をしたことはあるだろう。それから逃げずに向かい合う。そして昇華していく。苦しみばかり思い出して何度泣き濡れた夜を超えたことか知れない私としてはとても刺さった。諦めて忘れることが良いのだろうかと思ったが、もう少し向き合ってみたい。
由紀が我聞に父親の話をする場面では、涙を零さずにはいられなかった。迦葉からの「兄貴なら受け入れてくれるから」「気持ち悪いのは由紀じゃなくて由紀の父親だろう」という言葉に後押しされ、苦しみながら打ち明けていく場面は見事。何より、それを受け入れてくれる人間が存在することを知った。人間不信に陥っている筆者であるが、もう少し誰かを信じ、頼ってみてもいいかもしれない。そう思えた。
冒頭にも述べた「女性は無意識のうちに男性に傷つけられている」これを観た男性は何を感じたのだろう。是非とも聞いてみたい。