「【視線】」ファーストラヴ ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【視線】
迦葉がエンドロールで話す言葉も、実は重要なメッセージだと思う。
原作にもある。
この原作は、島本理生さんの、ぐいぐい引き込まれる文章のリズムもあるが、様々な問題提起を物語の中に含み、それが一つひとつ、実は見落としがちだったり、敢えて見て見ぬふりをしているかもしれないことだったり、向き合えなかったり、封じ込めようとしていたり、社会全体や、個人の心の内にも焦点を当てた内容がとても印象深く、あっという間に読み切ったのを覚えている。
映画は、この作品を映像化するにあたって、本当に苦労したのではないかと思う。
確かに自分の抱いていたイメージとは違う部分もあるが、決して、失望さるようなものではなく、映画をご覧の人がもし、原作を読んでいないようだったら、読んでみても楽しめると思う。
(以下、ネタバレあります。)
この作品の秀逸だと思ったのは、(もしかしたら、僕だけかもしれないが)、この父娘の間には、もしかしたら性的虐待があるのではないかと想像させながら、それを裏切り、しかし、この社会システムに潜む異常性や危うさをいくつも明らかにして物語として見せていることだと思う。
対比も重要だ。
刺した事実と、不明な動機。
由紀と、環菜。
環菜の父の那雄人と、母の昭菜。
由紀の父と、母。
由紀と、迦葉。
善意と、小児性愛への興味。
迦葉と、我聞。
デッサン会の男性たちの視線と、アナウンサー試験の男性たちの視線、そして、個展の写真の被写体達の視線。
二つのリストカット。
様々な孤独や葛藤、そして異常性や危うさにフォーカスが当たる。
ここに描かれるのは、紛れもない僕達の社会の現実なのだ。
エンドロール冒頭の迦葉が発する「疑わしきは罰せず」は、重要な刑事裁判の精神だ。
舞台挨拶で、板尾さんが、トイレを濡らしっぱなしにしとくのが悪いんや、と言って皆の笑いを誘っていたが、実際に同じ事件があったら、どのような判決になるだろうか、裁判員はどう考えるだろうかなども考えさせられた。
原作で、由紀がストーリーテラーとなるところが、読んでいて心地よくて、それには及ばないかと思って少しポイントはマイナスにしました。
窪塚さん、舞台挨拶では滑ってだけど、映画じゃ、かっこ良かったよ😁
あと、個人的には、個展の写真が、安田菜津紀さんなどから提供されてたのが、なんか好感された。
賞を取ったことになっている、穴から視線を向ける子供の写真も含めて、本当にいい写真だったと思う。