劇場公開日 2020年12月4日

サイレント・トーキョー : 特集

2020年11月30日更新

日本映画の本気中の本気を見た “逃げ”のない超力作
2020年を締めくくる1本と断言できる「3つの理由」

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佐藤浩市、石田ゆり子、西島秀俊らが共演したクライムサスペンス「サイレント・トーキョー」が、12月4日に公開される。もしも刺激的な映画を見たいなら、まずチェックしたほうがよい一作だ。

コンプライアンスやポリティカル・コレクトネスの重要性が叫ばれる昨今。ともすればコンテンツの描写は批判を恐れ、中庸でマイルドな作品が目立つようになってきた。そんな時代にあって、本作は“異端”とも言える作風を志向し、世間に風穴を開けようとしているのかもしれない。

鋭い痛みや苦しみがともなおうとも、“本物”の描写から逃げず、真正面から撮り切る。その覚悟は、物語にハリウッド映画に匹敵するほどのスケールと重厚感をもたらした。

製作陣も俳優陣も本気中の本気を見せ、魂を刻み込んだ99分。2020年の日本映画を締めくくるにふさわしい、迫真の一作が完成した。この特集では、本作が必見である「3つの理由」を軸に、見どころを解説する。


【予告編】聖夜に、絶望を。 クリスマスの東京を襲う爆破テロ

【必見の理由①】「アンフェア」×「SP」夢タッグ
ネタバレ厳禁のノンストップサスペンス

まずは、作品の概要を紹介しよう。原作は、篠原涼子主演の大ヒットシリーズ「アンフェア」などで知られる秦建日子が、ジョン・レノンとオノ・ヨーコの楽曲「Happy Xmas(War Is Over)」にインスパイアされて執筆した小説である。

そして、メガホンをとったのは岡田准一主演「SP」シリーズを手掛けた波多野貴文監督だ。クライムサスペンスの名作「アンフェア」と、日本におけるアクションの新たな潮流を生み出した「SP」。高い品質で人気を得た二作のクリエイターが夢のタッグを組み、息もつかせぬノンストップサスペンスを創出した。

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舞台となるのは、クリスマスイブの東京。テレビ局に「恵比寿のショッピングモールに爆弾を仕掛けた」という1本の電話がかかって来た。半信半疑で中継に向かったテレビ局契約社員(井之脇海)と、たまたま買い物に来ていた主婦(石田ゆり子)が騒動に巻き込まれ、真犯人の策略で2人が爆破事件の犯人に仕立て上げられてしまう。突如勃発した連続爆破テロでパニックに陥る群衆の中には、素性の知れぬ男(佐藤浩市)の姿が目撃されていた。

そして、さらなる犯行予告が動画サイトにアップされる。真犯人からの要求は、テレビ生放送での首相との対談だった。要求が受け入れられない場合、渋谷・ハチ公前付近に仕掛けた爆弾が、午後6時に爆発するという。

世田志乃夫(西島秀俊)ら警察は総力を上げて犯人を追うが、その影すら踏むことができない。事件を起こす者、事件に翻弄される者、事件を追う者……。裏に潜む政府、マスコミ、一般市民の様々な思惑が行き交い、日本全体を巻き込んで事態は加速していく――。

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本作の特徴は、爆弾をめぐる物語運びのスリルが半端ではない点。そして、登場人物たちの視点で物語がスピーディーに展開され、「誰が真犯人なのか?」というネタバレ厳禁の謎解きのみならず、その裏に隠されたドラマなど、サスペンス特有のカタルシスがこれでもかというくらい詰まっている点だ。

手に汗握りながら鑑賞できて、上映後は「楽しかった……!」と頬を紅潮させながら劇場を後にできるだろう。


【必見の理由②】“本物”の描写から逃げない――
日本映画の本気がこもった超力作

“サスペンス全部のせ”ともいえる物語の魅力のほかに、「平和な日本で起きる連続爆破テロ」という設定に真実味を帯びさせる“描写の迫真性”や、ハリウッド映画とも勝負できる“規模感”が、ことさら目を引く。本作「サイレント・トーキョー」は、妥協を可能な限り許さず、日本映画としては規格外のスケールに本気で挑んだ超力作である。

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映画のハイライトに、渋谷スクランブル交差点でのひと幕がある。犯人が「渋谷に爆弾を仕掛けた。こちらの要求をのまなければ、午後6時に爆発させる」と通告し、警察が同所を封鎖する。ただ、そこはクリスマスイブの渋谷。若者たちがごった返し、避難するどころか爆発を見物しに来ている始末だ。時計の針が、告げられていた午後6時を指した瞬間……まさかの事態に発展する。

同所を長時間にわたって封鎖し、撮影することは非常に困難だ。似ている場所を選ぶこともできるが、そうすると作品の根幹のリアリティが破綻してしまう。では本作がどうしたかと言うと、驚くことに、渋谷スクランブル交差点の巨大オープンセットを、栃木・足利に建設してしまったのである。これが本物そっくりの出来なのだ。

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費用と手間と情熱をありったけ注ぎ込み、“本物”を貫いたことにより、度肝を抜かれるシーンが出来上がった。どこに爆弾があるのか? そもそも爆弾は本当にあるのか? どれほどの威力なのか? こちらの「描かれるのは『これくらい』だろう」という無意識の予測を、軽々と超えてくるほどのリアリティ。予想外な描写を目の当たりにした者は、そのショックゆえに、まるで自分の体が強い力で観客席から引き剥がされ、スクリーンのなか(すなわち爆弾騒ぎに沸く渋谷スクランブル交差点)へ放り込まれたような感覚を覚える。

するとどうだ。観客は映画で描かれる“爆破テロで混乱する東京”に降り立ち、次はどこが標的になるのかという恐怖や、自分や家族や友人の身の危険、そして犯人への憤りをも感じるだろう。まるで、現実世界でそれが起こっているかのように……。迫真の描写は、単に映画を鑑賞するだけにとどまらない、“肌で感じる映像”を生み出したのだ。

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オープンセットによるリアリティのほかに、登場人物の繊細な心理描写と、驚きをともなうサスペンスフルな展開がもたらす緊張感も白眉。緊張感は一定の値を超えると不快感に様変わりしてしまうため、ラインコントロールが非常に難しく、得てして“安全圏”な描写に調整してしまいがちだ。

だが本作はあらゆる表現技法を総動員し、限界ギリギリを攻めに攻めている。しかも渋谷スクランブル交差点のシーンだけでなく、全編を通じてギリギリを攻めているから、その心意気は尋常ではない。


【必見の理由③】名演に次ぐ名演で魅せる
悪魔的存在感の佐藤浩市×豪華俳優陣のクオリティ

最後にもうひとつ、俳優陣について言及する。日本を代表するオールスターキャストが、テロ事件に巻き込まれた“一般の人々”を演じている点が興味深い。


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まずは俳優生活40周年を迎える佐藤浩市。捜査線上に上がった容疑者・朝比奈仁に扮している。

作品全体に“凄み”を付与するほどのただならぬ存在感は、さすがの一言。物語の鍵を握る謎の男だが、一方で“日本人として共感を呼ぶ”人物でなければならないため、クライマックスシーンの撮影において佐藤は「ここで僕は高倉健さんにならなければならない」と語っていたという。


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さらに石田ゆり子が、わけもわからぬうちに事件に巻き込まれる主婦・山口アイコ役を純朴に熱演。 “一般人が渦中のど真ん中に放り込まれる”という極限状況を体現する。


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そして事件の真相を追う刑事・世田志乃夫役には、西島秀俊。だらしない無精ひげとボサボサな頭髪とは対象的に、眼光は周囲を切り刻むかのように鋭く、常に臨戦態勢。セクシーさと危うさが同居した佇まいで、物語を強力にけん引していく。


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続いて人気・実力ともに日本屈指の俳優に成長した中村倫也が、世間を賑わすIT起業家だが、不可解な行動ゆえに警察からマークされる須永基樹役。物憂げで謎めいた表情が、ファンにはたまらないだろう。

ほか、爆破事件でにぎわう渋谷へ興味本位で来てしまう会社員・高梨真奈美役の広瀬アリス、犯人に仕立て上げられるテレビ局契約社員・来栖公太役の井之脇海、世田とバディを組む生真面目な新人刑事・泉大輝役の勝地涼らの存在感も見逃せない。各登場人物の繊細で深遠な心理を、キャスト陣が名演に次ぐ名演で表現するさまは大きな見どころだ。

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また、もうひとりの登場人物と言えるのが、楽曲の存在だ。原作に影響を与えたジョン・レノンとオノ・ヨーコの楽曲「Happy Xmas(War Is Over)」は、“平和への祈り”や“日常の尊さ”という思いがこめられており、物語に強く関連している。気になる人は、映画を鑑賞する前に聞いてみてほしい。

日本映画界が無意識的に感じていた限界を突破し、圧倒的スケールで撮り切った本作。それだけでなく、ドラマ性の高い心理描写と王道のサスペンスの妙を、破綻させずに調和させる離れ業をやってのけた。今年の日本映画を締めくくるにふさわしい一作。これを映画館で体感せずに、あなたは2020年を終えられないはずだ。

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