劇場公開日 2020年6月5日

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「“自由か死か”から“自由か差別か”へ…ハリエット・タブマンの闘いは今も続く」ハリエット 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5“自由か死か”から“自由か差別か”へ…ハリエット・タブマンの闘いは今も続く

2020年11月6日
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鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

悲しい

単純

2024年に新紙幣が発行。
アメリカでも今年から20ドル札が新札になる予定だったが、延期に。その“顔”に採用される筈だったのが…
ハリエット・タブマン。
…誰?
ゴメンナサイ、歴史に疎くて。
奴隷解放運動家。800人以上の黒人奴隷を解放し、南北戦争でも活躍。
女性解放運動家としても歴史に名を残す。
偉業を成し遂げた、本物の偉人。
その功績が称えられ、アフリカ系アメリカ人女性としてドル紙幣に採用されるのも初。
しかしその道のりは、自由か死か、であった…。

19世紀の米メリーランド州。
農園の奴隷であったミンティは農園主の死後、借金の返済の為に売り飛ばされる事に。奴隷制度が廃止されたペンシルベニア州へ脱走、彼女を執拗に狙う農園主の息子の追跡を振り切って。
辿り着いたミンティは奴隷解放運動組織“地下鉄道”に助けられ、名をハリエットに改め、自由黒人となったが…。
彼女はそれだけでは納得しなかった。

南部に残してきた家族や同胞。彼女には夫も居る。
危険だと分かっていても助けに行く。
やがて彼女の噂は広まっていく。
“女モーセ”。
しかし彼女とて、産まれた時から奇跡の人では無かった。
酷な言い方をすれば、奴隷の身分であった。
そこから自由を選んだ。
残れば死、売り飛ばされば死。逃げても追跡され死。しかし、微かな自由がある。それを信じて…。

人は産まれた時から英雄ではない。己の行動が価値を決める。
ただの奴隷から闘う運動家へ。
奴隷の身分を知らぬ自由黒人の前でのスピーチも胸打つ。
それらを体現したシンシア・エリヴォの熱演。
ミュージカル・スターで主題歌も担当。両方でオスカーノミネート。彼女の土壇場映画と言っていい。

実話を基にしたシリアスな人種差別映画と言うと重苦しい印象あるが、割りとすんなり見られる。
が、それが良かったのか、否か…。
所々急に話が飛んだり、描き不足、ご都合主義に感じた部分も…。
ハリエット・タブマンの事を知れた勉強にはなったが、もうちょっと作品的にはパンチに欠けた。
アメリカ公開時、シンシアの演技は絶賛されたものの、作品の評価は伸び悩んだというのもちと納得。
また、奴隷解放活動家の事だけ描かれ、女性解放運動家の事はエンディングの紹介文だけなのはアンバランス…。

自由か、死か。
人は人の所有物ではない。
人には誰しも自由がある。
決して奪えやしない。
悪しき奴隷制度であっても。
だから廃止された。
…が、“それ”は形を変えて今も根付く。
記憶に新しい、今年世界を震撼させた人種差別事件…。
自由か、差別か。
ハリエット・タブマンの闘いは、今も続く。

それを象徴する筈だった新20ドル札。
それに待ったを掛けたのが、不正があると悪あがきしてまで現在大統領選争い中の白人至上主義の独裁者。
全く、何処まで…。

近大