「タランティーノの優しいまなざし」ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド エクステンデッド・カット Chuck Finleyさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0タランティーノの優しいまなざし

2022年9月18日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

楽しい

幸せ

自分勝手な思い込み、思い入れかも知れないながら、この映画は私にとってかけがえのない名作。

この映画で淡々と描かれるのは、
過ぎてしまったちょっと懐かしいひと頃、
四苦八苦して乗り越える小さな大困難、
どこかで起きるあり得ないような出来事‥

私はこの映画の時代まだほぼ生まれてませんし、その頃のアメリカに触れたような経験もありません。

でもちょっと思いに浸れば、私でも自分なりに昔のある時の日常や、その頃の日本で時代の転機となった出来事など、似たような過去の感慨や光景を思い出すことがあります。
でもそんな個人の昔話なんて今の誰も知りたがりませんし、くだらない小さな失敗や、不条理にも起きてしまった世間の大事件など、今考えてもどうにもなりません。自分の心の中にそっと置いておくだけです。

私は、クエンティン・タランティーノ監督とはいつもクールで巧妙で、自分の思い描く“芸術”を凶暴なアクションや一転ウイットなやり取りで表現する現代商業芸術映画のプロ、という具合に些か端的に評価していました。

しかし本作では、
はからずも過ぎてしまったもの、
その仲間たちや街や、もしかしたら世界にさえいくばくかの幸せや安らぎを広めたかも知れなかったのにそうはならなかったこと、
への哀惜の思いを優しく(一部の人でなしには優しくありませんが)可笑しく映像化するという、それまで私が勝手に監督作品に感じていた「タランティーノ芸術の創造、観客への提示」といった作品の土台とは全く違う、「優しい時間」を観客である私に与えてくれたような気がしています。

実際にはなかったし、そうはなり得なかったかも知れないけど、でも“あっても良かった・あったかも知れない”別の世界での、ある時代のハリウッドの普通の数日‥。

いわゆる「泣かせる演出」やシーン展開ではないのに、観ていてほのかに嬉しさと哀惜の涙が出る、また観た後で思い出してもウルっときてしまうような火炎放射器とワガママ男が出てくる映画は、私にとって初めてです。

本作については、YouTubeなどでその予告や本編映像と同時代の好みのヒット曲や別映像を合わせ、編集して流している外国の方々が散見されます。コメントで交流すると、そこに寄せる思いは皆大体同じ。良い作品です。

keebirdz