劇場公開日 2020年7月23日

  • 予告編を見る

「全体としては楽しめる」コンフィデンスマンJP プリンセス編 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5全体としては楽しめる

2020年8月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 長澤まさみは少し前に大森立嗣監督の「MOTHER」での振り切った演技を観たばかりである。演じた主人公秋子は自分の欲望を満たすためには子供の人権など平気で蹂躙する、鬼のような母親である。想像力の欠片もない無教養そのものの女でありながら、男をなびかせて操ることだけには長けていた。
 対して、本作品のダー子は想像力の塊のような女である。人の性格や願望を見抜いて、相手がどのように行動するかをほぼ正確に予想し、そして先回りする。これほどの洞察力の持ち主を詐欺師に設定したアイデアが秀逸だ。本作品の面白さはそこに尽きる。
 「MOTHER」とは方向性が異なるが、本作品の長澤まさみも振り切っていて、特に詐欺師ならではの無表情の表情を演じている顔がいい。この演技で主人公が一筋縄ではいかない知恵者であり強か者であることが解る。小日向文世もここではこういう表情が必要なのだとばかりに顔を作っている演技が上手い。裏の権力者役の江口洋介も悪人ながら懐が深い人間性を見せていた。東出昌大はお人好しの単純な演技のみ。この俳優はこれが精一杯で、これからも主役には向かないだろう。小手伸也はどんなドラマでも映画でも同じ演技。逆にそれが一定の需要を生んでいるのかもしれない。
 こっくり役の関水渚はよかった。この人は去年の「町田くんの世界」で見たきりだが、善意の塊である主人公に、相手役である平凡な女子高生が上手に絡んでいく様子を好演していた。今回の演技はマンガチックではあるものの、観客に訴えかけるものがあった。
 コメディだから人情話は不要だ。しかし日本の喜劇の悪い癖なのか、本作品でもラストシーン近くになるとやや説教臭くなってしまったのが憾み(うらみ)である。全体としては楽しめたのだが、吉本新喜劇みたいな蛇足のシーンがなければもっと余韻の残る作品になったと思う。

耶馬英彦