「コミュニケーションツールが違うだけで恋愛の仕方は古風だなと思った」花束みたいな恋をした you takaさんの映画レビュー(感想・評価)
コミュニケーションツールが違うだけで恋愛の仕方は古風だなと思った
小説や音楽や映画などは昔から共通の趣味として恋愛のきっかけになることが多いのでこの恋愛の仕方が今風という印象はあまり感じなかった。むしろ、アラサーの私たちが学生の頃にしていた恋愛に近いのでどちらかと言えば懐かしい恋愛の仕方という気もした。
この作品で印象的なシーンの一つがイヤホンの話。
「LとRで鳴ってる音は違う、片方ずつ聴いたらそれは別の曲なんだ」というニュアンスのセリフ。
作品のメッセージ性を考えるのならこの説教は正しい。二人で同じ方向を向いていたつもりだったけど、実は違う方向を向いていたというこの作品の結末への収束としてはあってる。
ただ、恋愛している立場からするならば、作り手への敬意や聴いている音楽がどうとかよりも、好きな人とイヤホンで繋がっているという状況そのものが幸せでそれどころではない。
初めの頃は距離があるから引っ張って相手のイヤホン抜けないかなという気遣いをする。だんだんと距離が縮まって、肩を寄せ合いながら心臓の鼓動聞こえてないかななんて考えていることが幸せだった。
まったく同じ音楽を聴くことにそこまで意味はなく、○○という曲をイヤホンを分けて心臓の鼓動を気にしながら聴いたみたいなのが甘酸っぱくていいんだよなと思う。
この曲あいつ(元カレ、元カノ、片思いの相手)と聞いたなって人なんてごまんといると思う。
冒頭の注意しに行くシーンは他人の恋愛に水差すなよとはちょっと思った。
今はもう完全ワイヤレスのAir Podsなどがあるのでケーブルを気にすることも少ないだろうと思うと少し寂しい気もする。
個人的にこの作品で一番すごいと思ったのは作中の挿入歌。
カラオケのシーンで1回目はキノコ帝国さんの「クロノスタシス」と2回目はフレンズさんの「NIGHT TOWN」が使用されている。
これは私の妄想に過ぎないかもしれないが、付き合う前の1回目のカラオケで歌っていた「クロノスタシス」のPVでは冒頭画面中央に女性が夜の街を一人で歩いているシーンから始まる。別れる前の2回目のカラオケで歌っている「NIGHT TOWN」のPVでは同じように夜のシーンを男女が歩いている所から始まる。こんなシャレたことをしているのかとびっくりした。
本作で共感してしまったところが、終盤に向けて二人が大喧嘩をするシーン。
「麦の言葉で就活をあきらめて好きなことをして生きていきたい絹」と「絹と暮らすために就職して社会性や協調性を身に着けてしまった麦」。
絹からすれば「あんたが就職しなくていいって言ったんじゃん」になるし、麦からすれば「社会人、大人になるっていうことは社会性や協調性持つこと、俺は甘く見てた」ということだと思う。
正直仕事を辞めたいと思っている私にとってはどちらも強く胸に刺さってしまった。
「仕事をするために生まれてきて人生の大半を仕事に捧げて死んでいく人生でいいのかという自分」と「生活していくためには金が要る、嫌でやりたくない仕事でも生きていくためにはやらなければならないという自分」の葛藤。
麦は好きなことを仕事にできずに就職をしたが、私は好きなことを仕事にしたがだんだん好きじゃなくなってきた。
人生なんてそんなもの。好きなことを仕事にしても楽しくもなく楽でもない。大半の大人は社会性や協調性をもってやりたくもない仕事をこなしているだけでまともに働いていると思い込んでいる。
絹のように甘い考えでも最低限生きていける環境があるのならそれが人生一番楽しいかもしれない。
作中で気になっていたことは、ミイラ展とガスタンク。
"あれもこれも同じものが好きなんて運命みたい"な感じだったが、ミイラ展とガスタンクだけはお互いに微妙な空気が流れていた。それでもお互い初めの方は興味ある風を装っていたが結局お互い興味なかったということが終盤に明かされていた。
本作品では小説や映画に関しては作者の名前とか作品名とかなどの薄っぺらい情報のみで意気投合しており、逆にガスタンクやミイラといった本人たちがより興味を持っていることにはお互い興味がなかったので実は大して運命的な出会いでもなかった。
ほんとに細かい所まで表現しているなと思ったのが、ミイラ展の感想を話し合っているシーンの後の足元が映っているシーン。
絹の足は閉じて麦の方をしっかり向いているのに対して、麦の足は八の字開いている。
男性の足は大体そんなものと言えばそうかもしれないが、このシーンを敢えて描画しているのであれば心理的描写なんだろうなと思う。
ひざやつま先がそっぽを向いていると興味がないということを表現していたのだと思う。
総評としては面白い作品でちょっと懐かしくもあり楽しめた。
こうゆう恋もあるよねという目線で見ても面白かったし、大人になるというのは人生から楽しさや華やかさが失われていくもんだよなというのも再実感した。
「クロノスタシス」と「NIGHT TOWN」といういい曲にも出会えた。