「花束みたいな素敵な邦画ラブストーリーを見た」花束みたいな恋をした 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
花束みたいな素敵な邦画ラブストーリーを見た
昨年、ヒューマン・ミステリー『罪の声』が絶賛された土井裕泰監督。
本来のフィールドは恋愛/感動モノ。
良かったのもあれば、ビミョーなのも…。
本作は評判上々やコロナ禍でのヒットも納得。
土井監督作の中でもお気に入りの一つに。
2015年。終電を逃した事をきっかけに出会った大学生の麦と絹。
小説、映画、漫画、ゲーム…趣味や好きな事が驚くほど共通。これって、運命の出会い…?
幾度か会ったり、食事したり、映画観たり、ミイラ展に行ったり、ファミレスでまた終電の時間まで他愛ない話したり…。
いよいよ告白。晴れて恋人同士に。
ここから、2人の5年間が始まる…。
昨今、カップルの期間ラブストーリーがよく作られる。
『弥生、三月』は30年、『糸』は18年。
それらに比べると短いが、私にとってはそれらより素敵な5年間だった。
まずは菅田将暉と有村架純の実力派2人のケミストリー。
ナチュラルさ、ユーモア、掛け合い、会話のやり取り、瑞々しさ、キュンキュンさ、中盤からそれらが徐々に変化していく演技や感情の体現はさすが。
初めてのキス。絹が「こういうコミュニケーションは頻繁にしたいです」
鼻血ブー!レベル。ハーイ!私もしたいです!(←この変態野郎!)
2015年~2020年までの実名での文化やサブカルが楽しく、リアリティーを生む。
小説、映画、漫画、ゲームなどの作品名のみならず、作者名やアーティストも。
ちなみに2人の最初の共通点であるご本人出演による“神”。私もすぐ分かりましたよ。
また、ロケ地の東京都調布市の多摩川や京王線など魅力的。
“カップルあるある”が散りばめられているという。
俺/私の事、どう思ってるのかな…?
ただ趣味が合うの仲のいい“友達”…?
告白するタイミングって…?
ドキドキ、ドキドキ、揺れに揺れ動く。
恋人同士になってからは、いっぱいキスして、セックスもして。
絹の両親は厳しい。実家を離れ、同棲を始める。
麦はイラストレーター、絹はケーキ屋でバイト。
近くのパン屋の焼きそばパンが美味しい。
バイト終わりは必ず落ち合って、話しながら一緒に帰る。
大晦日。捨て猫を拾って“バロン”と名付けて飼う。
幸せ。とっても幸せ。
特別なラブストーリーではない。“普通のカップル”の“普通のラブストーリー”。だからこそ、共感度たっぷり。
イヤホン共有の是非の通話や、女の子から花の名前を聞くと男の子はその花を見ると一生その女の子の事を思い出す…というリアリティーのある話。
数々の名作TVドラマを手掛けてきた脚本家、坂元裕二の名執筆。
普通のカップルだからこそ、それは訪れてくる。
お互い両親からの仕送りがストップ。
絹は資格を取って、就活。
俺も男だ。その姿を見て、麦もイラストレーターの夢を捨て、就活。
共に就職が決まり、フリーターから社会人として変わった以外は変わらずの筈だったが…
麦の仕事が忙しい。仕事に没頭するように。
気付けば、あんなに好きだった小説や映画や漫画やゲームに興味すら沸かず。今はもう、今村夏子さんの『ピクニック』を読んでも感動しないだろう。
会話も少なくなり、セックスも暫くしてない。
決定的な事が。突然イベント会社に転職した絹。
麦は、仕事には責任がある。例えやりたくなくても、生活の為にやらなければならない。
絹は、仕事も生活も楽しみたい。やりたくない事は無理してやらなくてもいい。
麦の意見は分かるが、如何にもな男性的な意見な気もする。
絹の意見は自由ではあるが、甘い意見な気もする。
仕事や生き方に対しての考え方、価値観の違い…。
すれ違い、溝、一度生じたそれらはなかなか修復難しく…。もはやお互い、何も感じないまでに。
別れたいけど、またもやそのタイミングやどう切り出すか分からないからただまだ一緒に居るだけ。
そして2019年。友人の結婚式の終わり、いつものファミレスで遂に別れ話を切り出す。
すると男は未練がましくなる。これまで何度か返事を待っていた結婚話を再び。でも、この時のプロポーズが酷い。今愛情が無くたって、子供が産まれて、長く一緒に居れば…。言いたい事は分かるけど…。
女は男のプロポーズに揺れ動きそうになりながらも、一度決めた考えを通す。涙ながらに。
そんな時、近くの席に初々しいカップルが座る。
あのカップルは、かつての自分たちだ。
今、自分たちに欠けているものは、あのカップルそのものだ。
2人は別れを決意した…。
ところがどっこい!
この後の展開が何ともユーモラス。
邦画ラブストーリーあるある、中盤の展開から悲しいオチで終わると思ったら…。
本作、前半は明るく楽しく、中盤はシリアス悲しく、そしてオチはまた明るく楽しく、ハートフルに。
よくよく考えると、一組のカップルの出会いから別れまでの話。普通だったら、切ない。
それをこう描くとは!
OPとEDは繋がり、Googleストリートビュー、“バイバイ”の巧み!
邦画ラブストーリーの秀逸作。
お見事!