「やがて枯れゆく"恋愛=美しい花束=ファミレス"を見事に示した映画」花束みたいな恋をした わたろーさんの映画レビュー(感想・評価)
やがて枯れゆく"恋愛=美しい花束=ファミレス"を見事に示した映画
清原果耶ちゃん贔屓の僕なので、もちろん観に行こうと思っていた映画なのですが、公開直前になっても清原果耶ちゃんの場面写真が上がってこない、予告編にも出てこない、果たして本当に彼女は出演するのか?なんで3番目にクレジットがあるのか?非常に不思議な気持ちで映画館に向かいました。
坂元裕二脚本の連続ドラマは、「それでも、生きてゆく」「最高の離婚」「Mother」「カルテット」「いつかこの恋を思い出すときっと泣いてしまう」は観ています。特に「最高の離婚」と「カルテット」が大好きです。とにかく情報量・固有名詞の多い会話劇、かといって状況説明をしてしまうのではなく、関係ない話をしているように見えて登場人物の内面や趣味趣向などを明らかにしていき、物語は確実に前進しているという、明らかに鬼滅の刃とは一線を画す作品ですよね。ながら見を許さない。だからこそ視聴率に苦しんでも熱心なファンがつく。そう見ています。
ということで、この映画なんですけども、本当に最高でした。パンフレットを購入するくらいに。良かったです。恋愛映画は障害やカセなんかなくても面白い、キラキラしてなくても面白いことを示してくれた一本でした。
冒頭からこれだよな…って入りでしたね。一つの音楽を二人でイヤホンを分け合って聞くカップルに対して、菅田将暉と有村架純が交互に言い合っていく。意訳ですが、イヤホンで聞く音楽は右耳と左耳両方で聞くことで完成される。分け合ってたらいい(正しい)音楽なんて聞けない。恋愛もそうだ。持ちつ持たれつなんてない。
二人の出会いのシーンは、終電を逃したことから始まるんですが、それまでにモノローグでそれぞれの登場人物の考え方や趣味趣向が明かされていくんですが、これがまた坂元節満載で。固有名詞がバンバン出てくる。「2014年ブラジルワールドカップで開催国なのに大敗したブラジルよりは最悪ではない」という自己内省なんて最高に坂元脚本でした。終電を逃して、二人の趣味が近いことにものすごく共感を覚える。ライブチケットを取っているお笑い芸人も、文学や音楽の趣味趣向も合っていることに運命を感じていくわけですけど。
社会人になって決定的に考え方の面で違いがあることに気づいていくんですよね。菅田将暉演じる男の方は、関係の現状維持こそ大事と考えていて、趣味は社会人の忙しさによって少しずつ楽しめなくなっていったり、ビジネス書に興味を持ったり(ビジネス書が悪いのではなく、彼女の趣味趣向とは異なっている)、別れを決意して臨むシーンでさえ「結婚しよう」ということで、恋愛関係ではなく生活共同体としての生き方を維持しようとする。この生き方もわかる。一方有村架純演じる女の方は、就職氷河期の中転職もできる、趣味に費やす時間もしっかりと確保できる、「楽しいことしかやりたくない」と主張するからこそその生き方もちゃんとできている、恋愛関係にもそれも望んでいる。この生き方もわかる。
結局、趣味や好きなことが一緒ということで混ざり合っても、年月が減ることに美しさは減っていく。また、最も大事な根っこの部分、考え方が合わなかったら美しさはさらにすごいスピードで衰えていってしまう。これこそ"花束"と"水"の関係に象徴されるものだと思いました。バラを100本とはよく言いますが、花束と言われると色々な花をきれいに調和させて作るものだと思うし、実際にこの作品のエンドクレジットでに出てくる花束も一つの花だけでできたものではありませんでした。時間とともに花は枯れる。水がなければもっとすごいスピードで枯れる。ずっと咲き続ける花束はない。恋愛もそんなところなんだろうなと苦しくなる。
告白のシーンも別れのシーンもファミレスなんですけど、ファミレスという場所も花束的な意味合いが強いと思っていて。つまり専門店とは違ってファミレスにはいろいろな料理がある、ドリンクバーなんてまさにそうで。趣味趣向の混ざり合う場所といっていいんじゃないかと思うし、そこで主人っ港の二人が心を通わせ合うのも遠ざかってしまうのも必然のような気がしてきます。
別れのシーンなんですけど。5年間の出会いと別れを描いたと予告編で言ってるわけですから、別れるってわかって見てるわけで、観てる側としてはかなりハードルが上がった状態なんですけども。そこに出てくるのが清原果耶ちゃんなんですよね。この演技が実に見事。詳しくはネタバレになるので言及できませんが、菅田将暉さんと有村架純さんだって若いはずなのに、あのキラキラした感じにはもう戻れないんだという栄枯盛衰を示すには最高のシーンだったと思います。思わず涙を流してしまいました。
菅田将暉と有村架純がちゃんとその辺にいる人に見えるのが素晴らしいです。これも演技力の賜だと思います。何度見ても面白い新たな恋愛映画の傑作の誕生を実感させられることでしょう。