劇場公開日 2021年1月29日

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「京王線沿線、同い年で過ごした身としては」花束みたいな恋をした ありきたりな女さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0京王線沿線、同い年で過ごした身としては

2021年1月30日
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鑑賞方法:映画館

私の人生ベストドラマ『カルテット』の劇中に、主要人物の一人であるすずめが「行かなかった旅行も思い出になる」と話す場面がある。
本作では「行けなかったお笑いライブも思い出になる」し、それが2人の距離を縮めるきっかけの一つにもなっていて、同じ坂元裕二作品の中に変奏を見た気持ちになって嬉しかった。

平成5年生まれ学年、京王線調布駅近辺、早稲田松竹、下高井戸シネマ、ユーロスペース、多和田葉子、希望のかなた、ミイラ展等いちいち刺さるカルチャー。
加えて、生きる為・一緒に居る為・文化享受の為、の労働のはずが、搾取と摩耗で文化資本や恋愛を満喫する余裕が無くなっていくプロセス、現実味ありすぎてしんどかった…私の友人にもそういった人たちをたくさん見てきたし、自分自身もギリギリのところで踏みとどまって生きているからだ。
特に「誰でもできる仕事をしたくない」とトラックを捨てた25歳男子の気持ちがわかりすぎたし、学生気分が抜けない絹も、夢と現実の狭間で社会的に染まって疲弊してゆく麦も、全部自分だった。

しかし、全く同時代を生きているのに音楽が全く分からなかったのショックだった。そんなに疎かったんだ。何をして生きていたのか記憶にない…
とはいえ、坂元さんのファンとしては台詞のささやかなところに坂元節を感じて嬉しかったし、自分の好きなものが重なり、分かち合える幸せもよくわかるので、在り得た自分かもしれないと感じながら切実に観ていた。

直前に『ヤクザと家族 The Family』、そして本作と続けて舞台挨拶観てたら、綾野さんも坂元さんも同日公開の他の映画達の名前を出した上で、この時下に映画を公開して観てもらう意味を問うて考えて話されていて、やっぱりこの人たちとこの人たちが創るものが好きだなぁと心から思った。

ありきたりな女
ありきたりな女さんのコメント
2021年2月4日

いえいえ、コメント嬉しいです。どうやらそんな良い時代もあったようですね。生まれる時代は選べないので、本当に羨ましい限りです。
『ピクニック』は未読なのですが、粗筋だけ読んで2人が好きそうだなとは思いました。
坂元さんの作品にいくつか見られる、社会という見えない枠からはみ出た者への確かなまなざしには、いつも救われる思いです。

ありきたりな女
グレシャムの法則さんのコメント
2021年2月3日

映画の中に出てくる今村夏子さん『ピクニック』の主人公、七瀬さんへの周囲の反応は、(直接的な表現はありませんが)効率とかスマートとは縁遠く、今の世の中の価値観では異質なもの(七瀬さん)との関係性が描かれているようにも感じました。だから、麦も絹も好きなのではないか、そんな風に思いました。

なんだかコメント欄をたくさん使ってしまい、申し訳ありません。

グレシャムの法則
グレシャムの法則さんのコメント
2021年2月3日

私よりも上の世代の頃、国立大学の学費はアルバイトでもなんとか払えた時代があったそうです。親が貧乏でも自分で稼ぎながら学を身につけることも出来た。だから苦学生という言葉が存在しました。周回遅れで社会人になった人とかも受け入れてくれる度量が世の中にあったということです。いつの間にか年収とか効率(短期間で稼げる人になる)とか経済的付加価値で人をランキングするようになり、遠回りした人の人間的な付加価値を認めたり受け入れたりする非効率な振る舞いの担い手や場所が消えました。

グレシャムの法則
ありきたりな女さんのコメント
2021年2月2日

コメントありがとうございます。私も麦や絹と同い年の社会人で、麦みたいに好きなことを仕事にしたいと思ってました。でも特に女である自分が一人で生きていくには、新卒で働いて闘って出世して稼ぐしかないと思って、人生で寄り道する発想を持つこともなかったなと思います。
自分の人生を悲観しているわけなくこれが当たり前だと思って生きてきたので、むしろそういった反応に驚きました。

ありきたりな女
グレシャムの法則さんのコメント
2021年2月2日

朝、このレビューを拝見してから一日中小骨が喉に突き刺さったままです。
平成生まれの少年少女たちに、さんざん夢とか希望とか絆という刷り込みを行なってきた癖に、若者が挫折や寄り道をした後、復活や再生よりも格差に繋がることの方が多い世の中にしてしまった昭和生まれの人間としての罪悪感のようなものを感じています。仕事でも、私生活でも何かの選択をする時には、基本的に若者の側の視点で判断しています。

グレシャムの法則