「フィンランドの縮図のような」ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像 カツベン二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
フィンランドの縮図のような
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他の例に漏れず、美術品の価値とは誰が創作したものか、いつの時代のものか、どういったバックボーンを持っているかで、決して作品の出来、不出来ではないということが改めてわかる映画。
家族を省みず大きな商売をする事だけを追い求めてきた老輩の美術商が最後に一花咲かせたいと思っていたところに掘り出し物の肖像画を見つけ、それが売れないと返せない額の借金でオークション落札するが、作者の署名がないことを理由に買い手がつかず、店の権利を手放し、その後亡くなってしまうというのが大すじ。
物語は終始淡々と重く静かに進んでいくが、オークション側でさえ調査出来なかったものを、老人の経験値と孫のインターネットや足で稼いだりと粘り強い調査を重ね、リーピン(という著名な画家)の作品であることの証明にようやく辿り着くシーンではことのほか爽快な気分を感じることができる。
孫は当初何かやらかすのではないかと思うほどに現代っ子の危うい雰囲気を醸し出していたが、祖父を手伝ううちに自分で考え行動し始め自立心が芽生え、祖父の死後の遺品整理においては絵を手放してはいけないと強く主張するなど少年の成長(家族再生)物語的な側面も見られる。
本作はあまり日本では馴染みのないフィンランド映画ということで、街の雰囲気や市井の人々の生活など、どのような雰囲気かを見てみたいという興味の上での鑑賞でもあった。
幸福度ナンバーワンの国ということで、高齢者ケアや学費無料など福祉面では惜しみなく税金を投じる住みやすい国という前知識はあったが、個々の生活にまでズームしていくと当たり前にそれぞれ多種多様な問題を抱えているということがわかる。
若者が高い税金を納める事で、自らは社会に出る準備をさせてもらい、高齢者へは安心した老後を過ごす手助けをするという当国の縮図のようなお話であり、手放しでのハッピーエンドではないにしても心が温まる素敵な映画だと思う。