「弁当がつなぐ絆」461個のおべんとう おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
弁当がつなぐ絆
特に気になっていたわけではないですが、今週は他に見たい作品もなかったので、とりあえずと軽い気持ちで鑑賞。原作未読ながら、タイトルとフライヤーのキービジュアルから、勝手に「親子のほのぼの物語」と予想。そして、ほぼそのとおりでしたが、不思議と満足感の得られる作品でした。
ストーリーは、井ノ原快彦さん扮する離婚したミュージシャン鈴本一樹が、一人息子の虹輝のために、高校3年間、1日も欠かすことなく弁当を作り続けるというものです。本編で息子役の道枝駿佑くんが言っていますが、まさに「それ以上でもそれ以下でもない」話です。大きな事件も起きなければ、「嫌がらせ弁当」のような激しい言い争いや確執もありません。ひたすら日常が積み重ねられるだけです。それでも、二人が少しずつ変化していることが読み取れます。
初めは、息子への励ましと、新しいことへの挑戦から弁当作りを始めた父。大変さを感じながらも最後まで楽しく作り続けたのは、弁当を受け取る息子の態度や空になった弁当箱から、息子の内面を察していたからでしょう。そんな父の作る弁当をありがたいと思っているのか、わずらわしく思っているのか、思春期に親の離婚と受験の失敗が重なった不安定な心理が見え隠れする息子。父親の呼び方も、パパ、父さん、あの人、としだいに変わり、心の距離を感じさせます。それでも、毎日の弁当が二人をつなぎとめます。虹輝の同級生がスマホで見せつけた毎日の弁当の写真は、気づかぬうちに積み重ねられた日々の絆そのもので、胸が熱くなりました。
心配で先回りして子供に口うるさく接する親が多い中、ここまで大きく構えて我が子を見守ることのできる父親はなかなかいません。そのルーツは福島の実家にあったように思います。短いシーンですが、父の背景が見える、大切なシーンでした。特に、一樹の母役の倍賞千恵子さんは、さすがの一言です。ほんのわずかな登場シーンながら、その場を完全に支配しているような風格を感じました。もちろん主演の二人も、肩に力の入ってない自然体の演技で、思春期という難しい時期を迎えた父子を好演していました。ついでにいうと、虹輝の同級生二人も、父のバンド関係の仲間も、みんな普通にいい人ばかりで、温かい気持ちで没入できました。
映画化するほどの話ではないかもしれませんが、それでも劇場で浸ってほっこりできる良作だと思います。自分も高校3年間、母に毎日弁当を作ってもらっていたことを思い出し、今さらながら感謝の気持ちが込み上げてきました。親と子、どちらの立場で見ても、あるいは親子で一緒に見ても、心にじんわり沁みてくるのではないでしょうか。