すばらしき世界のレビュー・感想・評価
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役所広司の見本市
三上を演じる役所広司が凄い。圧倒的だ。なんなんだこの人は。
暴力に明け暮れ、暴力を悪びれず生きてきた男が何故こんなにも愛おしいのか。時代に取り残されたヤクザが生き悩む姿に、何故こんなにも胸を打たれてしまうのか。何度も後退しながらも少しずつ前に進む彼の姿に、子どもの成長を見守るかのような期待と不安が入り混じる。手に汗を握る。
そして彼は嘘をつく。その姿を観て、歯を食いしばり、爪を立て拳を握った。弱者を見放す嘘と弱者を守る暴力。この世は一体どうなってしまったんだろう。皆が思うのではないだろうか、この世の中は「すばらしき世界」と言えるのかと。
英題の「UNDER THE OPEN SKY」はシャバとも読める。13年間の刑務所暮らしを終えて、三上は広い空の下で小さな一歩を踏み出した。それは十分にすばらしい世界なのではないか。せめてそう思いたいのだ。
それにしても圧巻なのは役所広司の死の演技。孤狼の血と言い、あの人はもしかして自由自在に魂を取り出せるのではないだろうか?恐ろしさを感じるほどの演技に感服。これぞ俳優。
かつてヤクザの扉を叩いた男が、希望の光と扉を開く
西川美和が、またやった!
役所広司が、またやった!
この2人の初タッグ! この2人のタッグでつまらない訳がない!
タイトルに掛けて言うなら、“すばらしき傑作”!
今年は近年稀に見るヤクザ映画の当たり年。
『ヤクザと家族』はヤクザの世界に入った男の一代記。
『孤狼の血 LEVEL2』は警察vsヤクザの直球。
本作は視点を変えて。
ノンフィクション小説を基に、殺人を犯した元ヤクザの男が社会復帰する様を描く。
三上正夫。
福岡で産まれ、幼い頃に芸者の母と生き別れ、少年の頃から早くも粗暴の面。
若い頃からヤクザの扉を叩き、以来その世界に。前科10犯。人生の大半はムショの中。
とある殺人事件の13年の刑期を終え、今度こそ気質になろうと決意するが…。
まずは、三上というキャラ像。
短気ですぐカッとなる。大声上げて怒鳴るモンスター的な面も。それ故トラブルもしばしば。
苦しめられている弱者を見過ごせない。実直過ぎる許せない。それ故トラブルもしばしば。
ムショで技能を学び、ミシンや手芸の才能はなかなかのもの。
こういうのを見ると、元極道もんであっても決して極悪人じゃないと感じる。
ちょっとユニークだったのは、出生地は違うが、芸者の母、ヤクザもん、放浪癖、短気、人間味がある…何処か寅さんに通じるものを感じた。
出所して早々、高血圧で倒れる。
仕事探しに苦労。免許の再取得にこれまた苦労。
かつてヤクザの世界では一匹狼として幅を利かせていたが、ひと度気質の社会に出れば…。
“すばらしき世界”どころか、“くるしき世界”。
三上が体験するこの社会。
くどくど言うまでもない。役所広司が名演。喜怒哀楽を体現。
出所した三上は社会復帰と共に、母親との再会を願う。
そんな三上の事を記した“身分帳”に興味を持ったTVプロデューサーの吉澤から三上を取材するよう半ば強制的に押し付けられたディレクターの津乃田。
その母親との再会探しの手伝いは口実で、感動ドキュメンタリー製作。
特に吉澤はTHE TVマン…いや、ウーマン。スクープ優先。
本来なら“理解者”である立場の津乃田。
しかし序盤は第三者/客観的な目線。
前科者の元ヤクザに対し、「罪の意識は無かったんですか?」と直球過ぎる質問。我々の代弁者かもしれない。
あるシーンで改めて思う三上への畏怖。
対立、言い争い…。
が、ある事がまた2人の親交を深め、津乃田も本当に三上の理解者となる。
活躍著しい仲野太賀が好助演。
一度社会のレールを外れた者が再び戻ろうと必死に努力する。
いい話ではあるが…
社会はそう優しくはない。…我々も。
三上は元ヤクザの上に前科10犯の殺人犯。
そりゃあ誰だって偏見の目で見てしまう。身分帳を見た津乃田の最初のリアクションが正直。
厳しい言い方かもしれないが、そう生きてきた自業自得。
しかし、身元引受人の弁護士先生が言っていた。社会が彼らに救いの手を差し伸べないと、救われず網の目から落ちた者たちは再び元居た場所に戻ってしまう。それもまた社会の無責任、不条理。
一時、三上は何をやってもダメな時があった。
むしゃくしゃむしゃくしゃ、虫の居所が悪く、今にも爆発しそう…。
そして彼はかつての“兄弟”の元へ。(白竜、僅かな出番だけどさすがの役所!)
こんな“くるしき世界”とは違う、やはり自分が生きてきた世界。
皆々が喜んで迎え入れてくれたが、実はこの組も苦境。
ヤクザが生きていくには辛すぎる今の時代。
兄弟にピンチが…。
助太刀に行こうとするが、奥さんに止められる。(キムラ緑子も出番僅かだけど、印象に残る)
そう。苦しいが、ここが踏ん張り所。
再びヤクザに戻るか、くるしき気質の世界で生きるか。
そして三上が選んだのは…。
ヤクザの殺人犯の更正話を美談にした偽善と思う人もいるだろう。
挫けるか否かは、本人の心の強さ弱さ。
周りのサポートもあって。
そんな姿と関係に、胸打つ。
オリジナル脚本もしくは自身の小説を映画化してきた西川美和にとって、初めて他人の小説を映画化し話題に。
徹底的に取材したという社会システム。リアルな人物&心理描写。一見シリアスな中にもユーモア…。
巧みな手腕はいつもながら天晴れなもので、本当に2時間があっという間だった。
監督が作品で一貫して描く、社会に適応出来ない者。疎外者。弾かれ者。
そんな彼らへの優しい眼差し。
…だが、ただの甘い話だけには終わらないのが現実的。
母親との再会はならず。が、失われた過去の思い出に触れる事に出来た。
紆余曲折あって、堅実に晴れて仕事を見つけた三上。
介護施設の助手。
生き甲斐を見出だし始めるが…、施設内で知能遅れのヘルパーへのいじめを目撃してしまう。
そのヘルパーと交流もあり、助けに行ってこそ三上。
が、ここでまた揉め事を起こしたら…。
どうしても“注意”だけが出来ないのが三上という男。
“逃げるが勝ち”という言葉があるが…、またまた苦しいが、ここが堪え所。
笑顔で語り掛けて来たそのヘルパー。
彼への三上の眼差しが、自分を重ねたのか何処か悲しい。
偏見、いじめ、肩身が狭く生きづらい。
かなしき世界。
くるしき世界。
しかし、サポート者、理解者、最初は誤解あっても分かり合えば応援してくれる人たちが必ず居る。弁護士先生の橋爪功とその奥さん・梶芽衣子、万引き疑いをきっかけに親しくなったスーパーの店長・六角精児、ケースワーカーの北村有起哉らとの交流。元奥さん・安田成美も見捨てておらず、終盤に掛けてきた電話が心温まる。
やさしき世界。
やっと辿り着いたスタート地点。その矢先…。
序盤からの伏線とは言え、悲しいラスト…。
が、
人生の大半をムショで過ごした男。しかも、元ヤクザの殺人犯。
人生の最期の僅か一時でも、社会の酸いも甘いも、己の不甲斐なさ、やればまだまだ出来る、周りの優しさに触れて、悲しいが、誰にも開かれもたらされる扉と、希望の光の空を見た。
すばらしき世界。
皆に優しい世界であってほしい
殺人の前科で出所したばかりの三上。
鑑賞前は、娑婆の世界を素晴らしいと表現したのかと想像してたのだが、西川監督やはり皮肉が効いてた。笑
はっとさせられた。介護施設でのいやーなあのシーン。誰もが一度は似たような場面に遭遇して三上のように処せざるをえなかったことがあるのではないだろうか。ああいった差別やからかいや偏見は娑婆の世界の方が醜悪なかたちで蔓延っている。
どっちの方が人間らしくて優しい世界なんだと問いただされるような重くて辛いシーンだった。
規格外のものたち、レールを逸脱するものたち、出る杭たちを認められない不寛容な社会構造を、私たちは変えていかなくてはと切に思った。
最近のヤクザ関連のドキュメンタリーなどをみていても、
ヤクザへの締め付けを極端に急激に厳しくしたことでの歪みが顕著だと感じる。
役立たずだと、育ちが悪いからと、親がいないからと、頭が悪いからと、様々な理由で排除されてきて、ヤクザの世界でしか生きられなかった彼らの更なる逃げ場は?ヤクザをやめろと言われてもその後のセカンドライフは?八方塞がりになってしまうのがやはり今の現状なのだと思う。
本作みたいに周囲の親切な人に恵まれてとんとん拍子に行くことはほぼないだろうなと素人目にもわかる。
ヤクザの世界の厳しさや恐ろしさはあまり描かれていなかったが、別の作品で十分表現されている。
三上が最期に観たものが、あの可愛らしい素敵な青年が丹念に育てた秋桜であることが、本当に救いだった。生きづらかっただろう世界を憎むことなく、生を全うした姿は悲しくも希望とあたたかさを残してくれたラストであった。
そして三上を囲む優しい人々。
結果、すばらしい世界なのかもしれない、悲観しきることはない、と最後には思えるふんわり優しいラスト。ただし落涙は必須。
社会派ドラマなんだけどコミカルなシーンも多く、重すぎない仕上がりはさすが西川監督。
役所広司の演技が素晴らしすぎて。三上の魅力も怖さもさみしさも憤りも、ここまで表現できるものかと。心震えました。
仲野大賀もよかった。
良い行いとは何か、何を幸せというか
いろいろと考えさせられた作品というのが一番の感想です。
正しいことをする者が罰せられることがあり、逆に悪い行いをする者が罰せられない場合もある。
そのような不条理な世界がテーマである。
この作品のエンドは好みが別れると思うが、私は好きです。
ネタバレになっちゃうと思いますが、
電波的な彼女というラノベの幸福ゲームという話に出てくる某人物と同じエンドを主人公は迎えます。
もがいて生きる
人は良いがカッとし易い元受刑者三上を演じた役所広司さん、組長の妻を演じたキムラ緑子さん。お二人のその役柄になりきった演技が秀逸。役所広司さんが元受刑者、キムラ緑子さんが組長の妻にしか見えませんでした👀
元テレビディレクターの津乃田を演じた仲野太賀さん。三上と本気で関わり、気にかける姿に引き込まれ、背中越しに三上に話しかけるシーン、ラストシーンで涙した。
他者の声に耳を傾け始めてからの三上の人懐っこい笑顔が印象的で、周囲の人々の真の優しさにも救われる作品でした。
映画館での鑑賞
タイトルなし
役所広司、いつにもましての熱演。
脇を固めるスーパー店長役の六角精児、ドキュメンタリーディレクター役の仲野太賀が素晴らしい。
生きにくい社会に直情を抑え込み溶け込もうとしたその時に、一面だけでは見えない物事の複雑さに直面する。
そしてこれからというときに逝ってしまう。
見応え十分。
正直だけでは生きていけない。でないと、生きているのがつらい。おおざ...
正直だけでは生きていけない。でないと、生きているのがつらい。おおざっぱ、適当、流す、ちゃらんぼらん、でいいと教えてくれる。
この主人公に満ちていたのは「義侠心」。しばしば溢れだしては相手に襲いかかる、善くも悪くも熱き心の持ち主だったように感じます。
「ヤクザと家族」は観たのに
この作品は観てないなー、と
ふと思い立って鑑賞してきました。
この作品も多分「重い」のだろうと
予想してはいたのですが、その通り重かったです うん
そして
この作品と「ヤクザと-」では
重さの種類が違うように感じました。
たぶん
この作品では、一般社会に出てきた後の
社会復帰しようと奮闘する主人公を
「一般の社会側から」 描いていて
「ヤクザ社会の側から」 は描いていない
それがそう感じさせる一因なのかなと思いました。
で
この作品の主人公の三上さん
普通にしていれば普通の一般人です。 (に見える)
一見して「ヤクザな人」とは分かりません。
(服を脱げば彫り物は見えてしまいますが…)
そして、この三上さん
何かの拍子に 暴力スイッチがONになります。
そのときの切れ方は、まさにヤクザ… ブルブルガクガク
お近づきにはなりたくないなぁ、と正直に思います
けど
この作品を観てしばらく日数が過ぎ
このように思うに至りました。
三上さんが暴力を振るうのは
「弱い者イジメを見過ごせないため」
からだったのではないのかな …と。
(前科10犯の行為が全てそうなのかは分かりませんが…)
行動は凶悪
動機は純粋
基本的にそういう人間だったのではないでしょうか。
◇
最後の場面で
イジメを見て見ぬふりしてしまった主人公
高血圧が悪化したのか
自分の部屋で帰らぬ人となって終わります。
手に握りしめた花は
苛められていた青年から貰った花だったのでしょうか
イジメを見て見ぬふりした自分を
どれだけ責めた事だろう と
それを思うと、ただただ切なくなります。 合掌。
◇
単純に 「面白い」
といった類の作品ではありませんでしたが
「見逃さなくて良かった」
そう感じた作品です。
◇
三上という男
今の時代なら彼はいわゆる
「発達障害」 なのかもしれないなあ と思います。
我慢すること
協調すること
それが苦手 (というか、出来ない)男だったのかと。
克服しようと
必死に頑張っている姿が、脳裏から消えません。
もう一度 合掌
◇最後に
登場人物の中で一番共感できたのは
シナリオライターの津乃田クン (仲野太賀)。
三上(役所広司)が、男を助けようと
街のチンピラ二人を相手に喧嘩する場面。
義侠心から始まった(であろう)行動が
次第に狂気の色合いが深くなり
倒れた相手に鉄のハシゴを振り下ろす
何度も何度も …笑顔で
(この男はおかしい …!)
カメラでの撮影を忘れ
恐怖に駆られ全力疾走でその場から逃走
ものすごく共感…。
◇最後に その2
タイトルの意味をずっと考えているのですが
やはり 皮肉(逆説的表現)なのでしょうか…
その一点だけ 今一つ すっきりしません…
☆映画の感想は人さまざまかとは思いますが、このように感じた映画ファンもいるということで。
不寛容、不公平、不平等な時代にどうあるべきか。
西川美和監督自身の作品の初鑑賞でかつ、役所広司さん、六角精児さん、橋爪功さん等俳優陣の演技も素晴らしいです。
後、北海道、九州地方でロケをするなど本当凄い物があります。
格差、高齢化、誹謗中傷、対立分断、冷笑社会、孤独死、公共交通機関の在り方、マスメディアの在り方等、日本を含む世界全体で問われている問題もこの作品に反映されていて、考えさせられます。
お勧めします。
誰も間違ったことを言っていない
本作の登場人物は、誰一人、間違ったことを言っていない。
刑務所を出所した三上(役所広司)を、テレビのネタにしようとしていたプロデューサー(長澤まさみ)。ケンカを始めた三上を撮れ、とだけ言うなら、嫌なヤツだが、カメラを持つ津乃田(仲野太賀)に「撮らないなら、カメラを捨ててケンカを止めろ」と言う。
三上の勤める介護施設の若者たちの「言い分」も、間違いとは言いがたい。
これが「すばらしき世界」だ、と本作は言う。
かつて罪を犯した三上の言うことだって間違っていない。
夜中に騒いではいけないし、困っている人を見捨ててはいけない。
だから、かつて自分を守ってくれた三上を、当時の妻(安田成美)は、いまも感謝している。
親を知らない三上は、子どものままの心を持っているようですらある。
間違ってはいないかも知れないが、「何が正しいか」については本作は断言しない。
ラスト、同僚のイジメを止めていたら、三上は体調を崩すことはなく、死ぬことはなかったろう。
だが、あそこで手を出していたら三上は破滅していたはずである。
この「すばらしき世界」では、いろんなことに折り合いをつけながら生きることが「正しい」のか?
それで死んでしまっては元も子もないのではないか?
そんな問いが観るものに投げかけられる。
かつて、三上と義兄弟の契りを交わしたヤクザの妻(キムラ緑子)は、三上に「シャバは我慢の連続。でも、空は広い」と言った。
三上が亡くなった翌日は、台風一過の晴れ渡った空が広がっていた。
自分、医療福祉系の仕事をしているゆえの響きがあった
予告編は2,3回見ていたので、観る前にこういう映画だろうとイメージしていたことがある。
「刑務所から出たばかりの男が社会に適応しようともがくが、男が時代遅れなのと現代社会が冷たすぎて悲劇に終わる」
観たら、ある程度はその通りだった。けれどやはり違う。 過去作品にあったような「前科者に冷たい世間」を描いたというわけではなく、ここで描かれる世間は相当に優しい。主人公三上の生活保護受給を担当した職員(『ヤクザと家族』ではヤクザの方演じてた)は職域ギリギリいっぱい三上に親身であったし、後見人の弁護士夫婦は家族同様にあたたかいし、近所の店主の底抜けなまでの三上への寄り添いぶりは、もう、映画館中に鼻すする音がズルズル響いていたほど。(不肖当方もすすった)
それでも三上という人間は、「前科者」を再生させんとする現代社会のシステムの中におさまりきれない内的エネルギーとクセと屈折と過去をたくさん抱えていた。三上の、ところどころネジが外れたような(ここらの演技がもの凄くて)思考や感情の波がスクリーン上に現れるたび、「おさまっていればいいんだよ」「おとなしくしていればいいんだよ」と思っている自分がいたことを白状せねばならない。
そして、実際、三上はそうなった、というかそうなるべきと理解し、そうなった、ようだった。
そして、もともと持病があったとはいえ、最後に三上は・・・・
わたしは最初、そのきちんと悲劇という形におさまってしまったようなラストに疑問を感じた。釈然としない後味を感じた。 けれど、このおさまりが、彼を殺したのだと思った。
作品は、三上のふるう暴力やヤクザの世界を肯定しているわけではない。 どんなに小市民でもカタギとして生きる方を肯定するからこそ、最後は広い空を描いているし、三上とてそう思っていたと思う。 それでも、おさまっていればいい、という姿勢は、いろんなものを殺す。 何より、映画作品はじめ表現物全般がそうだ。
三上のような生い立ちの者が生じないようにしよう、そういう社会にしようという営みも絶体に必要だ。 でも、そういう人はいつの時代もやはり生まれる。この社会を構成するものが人である限り。
こんな世界をすばらしいと思うか思わないかは人による。
せめて空の広さに感激するのは忘れないようにしたい。
(文の都合上書けなかったが、安田成美さんの凄みも一見の価値あり。てか、女優たちに迫力ありあり)
改めて、すごいタイトル。
タイトルは最後に出るのだけど、すべて見届けてから改めてタイトルを眺めると、なんでこのタイトルにしたんだろうと…。三上の人生は、外から見ると、とても「すばらしい」と言い切れるようなものではない。刑期を終えて出てきた彼にとって社会は生きづらいし、我慢して順応して生きていこうとする姿は痛々しかった。
それでも、「空が広い」娑婆の世界は生きる価値がある、という宣言なのだろうか…。
役所広司さんはどんな役でもすばらしいけど、本作は特に魅力が詰め込まれている気がした。コミカルさも、真面目さも、何をしでかすかわからないような怖さも。
ラストシーン、虐げられてる不器用で純粋な者から花をもらい、元妻から...
ラストシーン、虐げられてる不器用で純粋な者から花をもらい、元妻から再会の電話を受け、希望に手を伸ばそうとしてる中、嵐のなか洗濯物一つ取り込みそびれたまま花を握りしめて亡くなるその空は快晴で
そのあと「すばらしき世界」のタイトルがでる
その全てが、この世〜〜〜!!って感じだった
普通の物語だったら小説が仕上がり書店に並ぶ所までは生きてるだろうけど、志半ばで亡くなるなんてこと現実では山ほどある。
この映画はとことん現実だった…
だけど、どうしようもなく理不尽も無関心もある一方で、ここまで手を差しのべてくれるあたたかい場所も必ずあることを示してくれてるから、見終わった後生きようって思える
大事なのはわかりやすいハッピーエンドでも、綺麗に人生を終わらすことでもないのかもしれない
三上が亡くなる前に変われたことは間違いなく希望だった
突然生き方は変えられない
カタギの自分達からはもう少し我慢すれば…とじれじれするけど、これまでの自分の当たり前が通用しない世界はなかなかしんどい
見渡すと周りの人間はみんな働いてて、自分だけが職にすら就けないのはどれだけ劣等感芽生えるだろう
右も左もわからないままに自分の常識が通用せず嗜められたら敵に見えるかもしれない
三上は見てて子供と同じだと思った
人の根源的欲求ってそういうものかもしれない
誰か一人でもいいから自分に心を尽くしてくれる人が欲しい
それが無かったり、みんな他に自分以外に優先する大事な人がいて、焦って上手くいかないときに弾かれたり嗜められたら孤独感がすごいし簡単に手を差しのべてくれる所にすがってしまうし、自暴自棄になる気持ちもわかる
逆に自分のためにそこまでしてくれるんだって自分を気にしてくれる人が一人でもいてくれたら、がんばろうって思えるんだよ
ヤクザの兄弟の元から逃げて施設に行ってから泣きっぱなしだった
歳を重ねるほど、昔の自分の記憶を共有できる相手がいることは貴重だ
施設で歌った歌を一緒に歌うだけで少し救われる
母に会えたら「生まれた時どうだったか聞きたい」っていうのに、うあぁってなった
親と当たり前にいれる人はまず聞こうと思わないささやかな質問すぎて
それすらも叶わなくて
本当はただ一緒にサッカーして笑うような、そんなささやかなものが欲しかっただけなのに
癇癪起こさず運転することも、障害のある同僚に優しく接することも
これまで彼が我慢できなかった描写がしっかりされてるから、小さな事がどれだけ尊いか伝わっていちいち泣いてしまう
人のあいだの感情を描くのがうまい
ヤクザにもカタギにも馴染めない半端な所にいる、どちらにも少し違和感を感じる描写がうまい
真っ直ぐに生きることは苦しいし、そのわりに返ってくるものは少ない
周りの人間は、他人に対して不寛容だし無関心だし、そんな人でも怒った理由は誰かの命のためだったりする
善悪をハッキリわけられない、落とし所を見つけきれないのがこの世だ
それでも、優しさはあって、自分が変わったり信じようとすればそれに気づける瞬間があって、意外と人は人を見捨てないこともある
辛い描写や残酷な現実があっても、やっぱりどこか残るのは優しさだった
役所広司が素晴らしい
身近な人が絶賛していたので見た。
それが少し純粋な感想を持つことを邪魔をしたかもしれない。
役所広司さんがものすごく魅力的で、ひとときも目を離せなかった。
北村有起哉さん、六角精児さんは、本当にそういう人がそこにいるとしか見えなかった。
仲野大河さんの演じるつのだ、彼の最後のふるまいは、自分の成功が夢に終わった残念な気分も、多分に含まれているのかもしれない、と思った。
更生の道は遠い
ヤクザと家族に次いで更生ものかなと思って観るの止めてた
観てみたら割とすんなりと観れたな
一度底辺を味わうとなかなか元には戻れない日本の社会
この物語の主人公である三上も同様で社会復帰に苦労する
運転免許や携帯、仕事などみんなが当たり前に行ってることが
社会復帰をしようとする者にとって障害になっているのが描かれている
我慢ができず暴力を振るってしまったりするのは暴力に明け暮れてきた者のサガか
しかし仕事を見つけ更生出来たことは素晴らしいよね
そして希望に満ちたまま死ねたのだから
最後は悪くない人生だったのかも
何か色々と共感する所のある物語だったが
悪くない出来だと思いました
名優、役所広司さんの名演が味わい深い作品です。
予告編を観た時から気になっていた作品を鑑賞しました。
で、感想はと言うと、切ない。切ないなあ〜。
ヤクザとして足を洗うと決意した男が出所後、懸命に真っ当なカタギとして生きようとする様が描かれていますが、単純に清く正しくと描かれていない所が生々しく、また何処か憎めない感じで、名優役所広司さんの演技が光る作品です。
自身の罪を不当と感じながらも出所後は真っ当に生きようとする三上。それでも世間の風が冷たく、生活保護の申請や就職活動もなかなかままならない。また荒くれ者の気性も変わらす、様々なトラブルを巻き起こす。だがそれでも周囲の人と理解や援助もあり、三上は徐々にカタギとして歩もうとするが…
ヤクザとしての生き方と言うより、現代風に「反社」(反社会勢力)として扱われる不当な感じが見ていても痛々しい。
正直“こりゃカタギになるのは無理じゃね?”と思うぐらいの不当な扱いが様々にのしかかっていく。
自業自得と言ってしまえばそうなんだけど、社会がカタギの道を不本意に閉ざしている様にも感じられるんですよね。
この辺りが先日公開された「ヤクザと家族 The Family」と対を成している感じがして面白い。
ヤクザと家族 The Familyはヤクザとして生きたくとも生きられない悲哀を描いているが、すばらしき世界はヤクザを辞めようとしてもなかなか難しいと言うのを描いている。
描く側のスタンスが違うので一概に比較は出来ないが同時期に描かれたヤクザのその後を描いた作品なので対で観ると面白いです。
三上を助ける様々な人達もいろんな思いがあるが、皆言えるのが不器用で粗暴ながらも真っ直ぐな三上の人柄に惹かれて、様々にフォローしていく。
それをさまざまな名俳優たちが演じていて、安定感もバッチリ。
三上役の役所広司さんはもう言う事無し。
役所さんが名を連ねているだけで安心感が半端無いw
また決して良い人と言う訳でなく粗暴で短気。一見すると付き合いたくない人ではありますが、付き合ってみると実は良いヤツだったと言うのを絶妙で役所広司さんの振り幅の広さと懐の深さが光ります
取材を通して三上と心通わしていく津乃田役の仲野太賀さんも良い感じ。
万引き疑惑の疑いから同郷という事で心通わして行くスーパーの店長・松本役の六角精児さんがいるだけでなんか微笑ましくなるんですよねw
その他にも橋爪功さん、梶芽衣子さん、白竜さん、キムラ緑子さん、長澤まさみさん、安田成美さんと鉄壁の布陣。特に長澤まさみさんの使い方なんて贅沢ですわ。
原作は佐木隆三さんの長編小説で実在の人物をモデルに描かれているとの事ですが、佐木隆三さんは様々な事件・事故を扱った小説やノンフィクションを出されていますが、映画化になった作品も多く、「復讐するは我にあり」や「海燕ジョーの奇跡」「南へ走れ、海の道を!」と言った映画化された作品も多数。
事件・事故を取材した著書は多数で骨太な作品である事のバックボーンも頷けます。
気に入っていると言うか印象的なのは、兄弟分がいる九州から戻ってきて、母親の行方が一応決着した感じはアンニュイな感じではありますが、夕暮れのシーンがとても印象的。
また、介護仕事にパートで入った職場での年下の同僚のイジメを身震いしながらも爆発せずに社会に溶け込もうとする三上の苦悩が印象的。
あそこで“何やってんじゃー!”と制裁していたら、スカッとするけどそれではダメ。この作品の骨太さを表しているシーンです。
難点があるとすると、ラストの終わり方。
三上のアパートに帰るまでならとても爽やかで清々しく、三上の人柄が報われる感じなですが、ああなってしまうとちょっと個人的には?が付いてしまう。
これが悪い訳ではないが、こうでなければいけなかったのか?と言うとそうじゃないと思うんですよね。
なので、あの終わり方は切ない。切な過ぎる。
「ヤクザと家族 The Family」でも、綾野剛さん演じる賢治が非業の死を迎えましたが。反社と言う烙印が押されて、それでも懸命に立ち直ろうとする者に対しての結末はペニミズムと考えても悲しい。また津乃田の慟哭が悲し過ぎる。
往年のヤクザ映画の様なヒロイックさはさほどなく、今の時勢に合わせたヤクザ映画とも言えますが、この辺りはさすが佐木隆三さんの作品なだけあります。
役所広司の演技がとても光り、他の出演者の方々も熱量もすごい作品ですが、それでも最後だけはハッピーエンドで終わって欲しかったなぁw
観る価値は十分にある作品です。お勧めです。
西川組に結集した最高峰の役者たち
障害者の同僚の優しさに涙が溢れそうになり帰宅する三上(役所広司)に、元嫁から電話がかかってくるところで終われたら清々しかったなぁ。
それでも、彼の死を心から嘆いた人たちがいたことに、僅かながら救いがある。
西川監督は、人物を多面的に描き、社会を鋭い目で見つめながらも、どこか優しさがある。
仲野太賀がこの映画の良心だ。『ダークナイト・ライジング』のジョゼフ=ゴードン・レヴィットのように。
嫌味な人物に見えながら、父親の同郷人に対して過剰なまでの優しさを見せるスーパー店長の六角精児。これまたお役所仕事に見えながら、彼なりに助けてくれようとする真っ直ぐな職員の北村有起哉の二人が光ってたなぁ。
役所広司の凄さは計り知れない。毎回どの作品でもホームランをかっ飛ばす。寡黙な正義の人でありながら、キレると何をしでかすかわからない狂気が宿る。でも実在の人物のように見える。今1番好きな日本俳優。
サントラの民族やJAZZYな雰囲気も、独特でよかったな。
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