「それぞれの正義」すばらしき世界 Kenjiさんの映画レビュー(感想・評価)
それぞれの正義
登場人物の生き方や彼らのセリフにはそれぞれの思いや背景を感じる。誰が正解か誰が正しいかと簡単に言うことはできないなと思った。
いじめていた老人ホームの職員でさえ、彼らなりの事情を考えると頭ごなしに批判はできない。やってることや態度はとても感じ悪いけど、弱いものいじめをしてしまう職場の環境にも原因があるのかもしれない。距離をとってちょっと飛躍して考えるとそう考えることもできるのかなと。
主人公はじめ、役所職員、店長さん、津野田くん、ヤクザ、、、それぞれ、はじめに感じる印象と、話が進んでいくにつれて見えてくる印象が少しずつ変わっていくように、主人公と彼らを取り巻く登場人物の誰が正義かと簡単にいうことはできない。
それぞれの正義が話の流れの中でそっと顔を出していく。ムダなシーンが一つもないなと思った。
見せ方も秀逸だった。
ポスターに騙されて電話をかけるシーンでは、階段を登る女性のシルエット、直後に男性のシルエットが映るから、女の人が怖いお兄さんと一緒に来たと思った。
津野田くんが、主人公のケンカ姿に恐怖して逃げて、叱責された後に気持ちが揺らいでしまう。そのときに、泣いてる子供を見て、勢いのまま主人公のトラウマを直面化させるシーン。この男の子も捨てられてかわいそうと、こっちが思った隙をついてすぐに母親が優しく寄り添ってくる。
店長さんに対して「達に悪い客がきたら俺に任せろ」と主人公が言うシーン。思わずクスリときてしまったが、よくよく考えればその暴力で解決しようという生き方こそ、彼の生き辛さや今まで起こしてきた問題の根底にあるのだと気付かされる。一見ユーモラスなシーンだけど、それがユーモラスであるほどできるこちらの隙を、のちのち効果的に揺さぶってくる。彼の持つ暴力性がいつ問題になるのかと、最後はハラハラせざるをえなくなる。
そんな鑑賞者の想像からできる心の隙をさりげなーく与えながら、それに寄り添うようにその隙をガッチリと突いてくる。そんな見せ方がなんともいえず秀逸だなぁと思った。