劇場公開日 2019年12月6日

「理想の女性という幻想をめぐる奇妙なコメディ」地図職人の恋人 バッハ。さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0理想の女性という幻想をめぐる奇妙なコメディ

2020年4月30日
PCから投稿

ハル・ハートリーが長編デビューする前に撮っていた短編で、本人にとっては秀作のような扱いらしい。ただ、大学の卒業生作だったという『キッド』に比べると、粗さはありつつもかなりスタイルは完成されていて、そして他のハートリー映画と同様に、女優がすごく魅力的に撮られている。

物語は、実家ぐらしの内気な男のもとに、見知らぬ女が押しかけてきて、そのまま居座ってしまう。この女性が不思議ちゃんといえば不思議ちゃんなのだが、男が運命の相手だと思ってしまうのもわかるし、なにか真理を知っているような存在でもある。

無理やり紐解くなら、男が女性全般に抱く憧憬と不安が人の形になったような、まるで観念と妄想が生み出したような女性なのだが、男性にとって都合のいい存在ではなく、どこか地に足のついたリアリズムを兼ねそなえていることが、とてもハートリー作品らしい。

直訳とは違う「ちょっと暴れた」という字幕に宿った可笑しみも忘れがたい。

村山章