劇場公開日 2020年6月1日

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「観客は映画によって試されているような気がする」許された子どもたち kossyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5観客は映画によって試されているような気がする

2020年7月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 いじめ、少年法、ネット誹謗中傷、毒親、さまざまな社会派要素を取り入れ、驚愕シーンをこれでもかこれでもかと観客に訴えてくる作品。もっとも驚いたのはエンドロールでの参考文献の多さ。内藤監督の8年がかりの構想というのもまんざらではなく、刑事の訪問や家庭裁判所の様子などは調べつくしてあるとも言えましょう。

 重苦しい内容ながら、犯罪に加担した少年4人の名前が皆キラキラネームであるとか、ボクシング少女の出現、教室の後ろの壁に貼ってある習字が「納税」だったり、不謹慎ではあるけど、ネットの書き込みに「裁判官もゆとりかよ」という言葉に笑ってしまいそうになりました。結構遊び心も散見されるんです。

 キラの母親真理のモンスターぶりには開いた口がふさがらない。「あなた子どもがいないんでしょ?」なんて台詞は典型的なモンスターペアレント。息子の無罪を信じ(というか、勝手に決めつけ)た上、自身も偽りの帰宅時間を証言するほどだ。たしかに日本国民は誰しもが幸せになる権利がある。しかし、犯罪は犯罪。改心、更生なんてのは罪を認めることが大前提だと思う。

 ネット上での行き過ぎにはうんざりするほどで、「在日決定」だとか「日教組の陰謀」とかわけのわからないネトウヨの書き込みも多数。しかも住居にまで落書き・貼り紙といった粗暴な行為は後を絶たない。引っ越し先にも執拗なまでの犯罪ウォッチャーがいたり、転校先の中学生も一緒になって断罪しようとする。今のコロナ禍における「店を開くな」と中傷したりする私警察化もそうだけど、とにかく犯罪者のレッテル貼りや攻撃は同じ国民としても恥ずかしい限り。驚くべきは被害者遺族の家にまで「金の亡者」という落書き・ビラ貼りがあったことだ・・・民事訴訟なんて、ある意味、金の問題じゃないのに・・・

 登場人物や書き込みする人間のほとんどが、どこか人間の心を失ったかのような描写だったけど、この救いの無さが観客を試しているのだと感じた。自分だったら、この書き込みぐらいしたかも・・・とか、キラは許せないとか、いじめる側にならないだろうかとか、どこかハッと思わせる。こんな奴死ねばいいのに!と思ったら最後、映画という試験に不合格だと思う。

 控訴しなかった段階で樹くん事件で裁かれることはないだろうし、やっぱり司法の限界も感じさせられる。「疑わしきは被告人の利益に」なのだ。また、更生できずに再犯に至ることも悲しき現実。終盤には母子とも改心したかのようにも見えるが、それは再犯しないことではないだろう。人の痛みを知りつつも実刑を受けていないのだから・・・ただし、この映画を観た人なら犯罪に手を染めることはなさそうだ。それくらいバッシングの恐怖というものがあった。

kossy