劇場公開日 2020年6月5日

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「着想も物語も面白いけど、撮影の仕方にまず驚いてしまう一作」ドロステのはてで僕ら yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0着想も物語も面白いけど、撮影の仕方にまず驚いてしまう一作

2024年5月1日
PCから投稿

2分間のタイムループに巻き込まれた人々を描いた『リバー、流れないでよ』(2023)の前身的な作品です。

二つのモニターを介して、2分先の自分たちと接触できるようになる、このシンプルな設定を、カフェとマンションという限定的な舞台を使って、非常にスリリングな物語に仕上げています。予算は比べ物にならなくても、アイデアと面白さは決してクリストファー・ノーランに負けてないよ!と強く言いたくなります。

約70分間の物語を全編ワンショット撮影風に描いていて、ところどころ話術で笑わせてくれるものの、映像的には緊張感がすごい。途中でものすごーくわざとらしくフォーカスをずらしたり、黒味を入れるところも、「あくまで「ワンショット撮影”風”」ですからね!」と言ってるようで洒落っ気が効いています。ここは『1917』(2020)のロジャー・ディーキンスの撮影術にも負けてないし、『ボイリング・ポイント』(2021)よりもワンショット表現に必然性があるよ!と言いたいところ(少々大げさ)。電源コードの異様な長さも一種のギャグ表現として笑えます。

ものすごく面白い映画なんだけど、公開が新型コロナウイルスの感染拡大期と完全に重なってしまい、当時なかなか話題になりにくかった点は残念。しかしその経験を踏まえて3年後に、同じ「時間操作もの」としてより物語を練りこんだ、『リバー、流れないでよ』を作り上げたんだから、まさに「時間を味方につけた」作り手たちなんだなぁ、と改めて感心させられます。

ワンショット風の撮影もすごいけど、2分先、または2分過去のモニター映像をどうやって撮影したのか、その緻密な計算と撮影の手間を考えると、頭がくらくらするほど。そうした撮影の様子はエンドクレジットで一部観ることができるので、最後まで必見です。

この作品で初めて、合わせ鏡をしたときに奥にずらっと同じものが見える現象を「ドロステ効果」と呼ぶことを学びました!

yui