「ヨーロッパ企画の神髄。ワンカット風の演出も光る。」ドロステのはてで僕ら といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
ヨーロッパ企画の神髄。ワンカット風の演出も光る。
「ヨーロッパ企画」といえば、奇抜なアイディアが光る数々の名シナリオで知られ、『曲がれスプーン』や『サマータイムマシンブルース』などの映画原作を生み出した有名な劇団ですね。そんな実力と知名度を兼ね備えた演劇集団が、初めてオリジナルで制作した長編映画が本作『ドロステのはてで僕ら』です。
とある映画紹介YouTuberさんが本作を紹介していて、興味を持ったので私も鑑賞しました。上映時間が70分と短く、スキマ時間に鑑賞することができて良いですね。
結論ですが、かなり楽しめました。テレビ同士が2分の時間差で繋がるというストーリーで、その「2分」という時間がなんとも絶妙なこと。未来が知れるのは確かに凄いが、たった2分先の未来を知ったところでできることは限られている。「未来が分かる」という能力をこんなにコミカルに描けるのは、やはりヨーロッパ企画さんの強みですね。
ただ、終盤までは凄く良かったんですけど、ラストの締めは正直がっかりしたかな……。そこまではかなりロジカルに脚本が組まれていたのに、最後だけあまりに強引と言うかご都合主義と思えてしまう展開で、ラストがもう少し良ければ私が今年観た映画の中でもトップクラスの作品になっていたと思います。やはり「ピークエンドの法則」は正しかった。ラストが酷いと、映画全体の印象が悪くなる。
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雑居ビルの1階で喫茶店を営み、2階で生活をしているカトウ(土佐和成)は、仕事を終えて自宅に帰るとテレビの中に現れた「自分」に話しかけられる。「俺は2分後のお前だ、1階と2階のテレビが2分の時間差で繋がっているんだ」とテレビの中の自分に話しかけられたカトウは、半信半疑のまま1階の喫茶店に戻ると、店の中にあったテレビには自室にいる「2分前の自分」が映し出されていた。
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ヨーロッパ企画さんの強みである「緻密な脚本と伏線」「コミカルな面白さ」を両立させた素晴らしい作品でした。「2分の時差で繋がるテレビ」という発想から、「合わせ鏡のようにテレビを繋げて更に先の未来を見る」という使い方の発想は素晴らしいし、2分刻みの未来しか見えない故に起こる「どうして2分後にこんなことになってんだ」みたいな緊張感のある要素が出てくるのも、コミカルとシリアスの緩急がついていて非常に面白かったですね。
ワンカット風の撮影をしていることでリアルタイムに時間が進んでいるのもしっかり活きています。ワンカットであることにしっかり必要性が感じられる作品でしたね。『1917 命をかけた伝令』というワンカット映画の大傑作が本作の前年(2019年)に公開されましたが、本作はそれに負けず劣らずの作品になっていたと思います。
しかし惜しむらくはラストシーン。それまではパズルのような緻密なストーリー構成で、「なるほどそうきたか!」と驚かせてくれた本作なんですが、個人的にあのラストシーンはものすごく陳腐に感じてしまってテンションだだ下がりでした。「もう少しマシな結末あっただろ」って気がしてならないです。物語の印象は一番の盛り上がりどころ(ピーク)とラストシーンで決まるという「ピークエンドの法則」というものがありますが、本作は重要なエンドシーンが陳腐で、観終わった時に「面白かったー」という感じなかったんですよね。なんだか残念です。
でも全体的に見れば非常に楽しめましたので、オススメの作品です。