「設定の破綻を演技で修復する映画」ドロステのはてで僕ら Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
設定の破綻を演技で修復する映画
設定は破綻しているはずだが、うるさいことを言わなければ、極上のエンターテインメントである。
映画「テネット」よりも、何倍も面白かった。
理解できるまで、自分は時間がかかった。
というのも、時間だけがずれているだけで、空間は共有していると思っていたからだ。
いつ過去の自分が、現在の自分の世界に乱入して、“クラッシュ”するのだろうと、ハラハラしたのだ。
ところがこの映画の設定では、ディスプレイの向こうは、空間さえも共有しないパラレル世界だった。
しかしそうなると、実際、映画の中でも何度も言及されるが、設定は破綻している。
なぜなら、いったん未来と交信してしまった以上、過去に向けて、きっちり2分後に同じことを再現して見せなければならない。
逆に、未来から指示されたら、きっちり2分後に同じ事を遂行しなければならない。
しかし、もちろんそれは、いくら頑張っても厳密には“実現不可能”だ。
さらに、各々のパラレル世界では、未来や過去に縛られて“自由な行動”が取れなくなるが、登場人物がそれを遵守しなければならない理由など、どこにもない。
この映画が面白いのは、その“実現不可能”なことを、役者たちが同一の演技を2分後にアングルを変えて、正確に繰り返すことで“実現”しているところだ。
設定の破綻を、自然な感じの演技によって、何事もないように修復している(笑)。
登場人物の誰もが、決して未来の自分も、過去の自分も裏切ろうとしない。
そして、そのいつ生じてもおかしくなかった破綻を、最後の最後まで引っ張って、ラストでドカン!とかますのである。
時々、長回しが入るので、撮影は楽ではなかったはず。
脚本賞をあげたいくらいだ。
コメントする