劇場公開日 2020年1月17日

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「女心の闇を見せつける」私の知らないわたしの素顔 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5女心の闇を見せつける

2020年1月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

知的

 なんともはや、ブラックな少女マンガみたいな作品である。決して悪い意味ではないが、それほどいい意味でもない。
 フランスでは恋愛に年齢は関係ないというのが常識で、中年以降になっても堂々と彼、彼女の話をする。それは多分いいことだ。シャンソン歌手のコンサートのトークで聞いたが、フランソワーズ・モレシャンは80歳近くになってもきちんと化粧をして赤いワンピースを着てハイヒールを履いて、これからデートなのと言わんばかりに艶然と微笑んでいたらしい。性に開放的なフランス人ならではのエピソードである。とても洒落ている。
 いくつになっても恋の炎を燃やすのはいいのだが、肉体は必ず衰える。恋は上手くいっても性行為は上手くいかないことがある。歳を取れば尚更だ。老いのもどかしさがそこにある。
 人体の耐用年数は50年ほどだそうだ。従って本作品のヒロインは減価償却を終えている。しかし精神は若くて、まだまだ若い男と恋をしたい。現実にはかなり難しいが、ネット上のバーチャルならそれが出来る。
 ジュリエット・ビノシュが演じた主人公クレールは、知的な職業の人らしくSNSを縦横無尽に使いこなし、ゲームのように人を手玉に取る。嘘と嫉妬と自尊心のゲームだ。
 しかしゲームには必ず落とし穴がある。その落とし穴はクレール自身が掘ったものだ。つまり、どれほど愛されていても、更に相手の愛を確かめずにいられない女心の闇である。クレールはその穴にみずから嵌まってしまう。
 ジュリエット・ビノシュはやはり凄い女優である。常人は人生で稀にしか遭遇しない女心の闇を、本作品ではこれでもかとばかり見せつける。
 女の言葉にはそこかしこに罠が散りばめられている。人を試し、欺き、そして支配するためだ。少女マンガの台詞はそういう言葉で溢れている。女心の闇も、人生の真実のひとつである。恐ろしいと解っているその深淵を、誰しも覗き込みたくなるのだ。

 本作品はストーリーも人物の相関関係もよくできている。自分のはじめたゲームに翻弄されつつも、次の一手を繰り出していくヒロインから目が離せない。エンディングでは深い溜め息が出た。

耶馬英彦