「中盤まで、誰の何の話かわからなかったが・・・」シャドウプレイ 完全版 慎司ファンさんの映画レビュー(感想・評価)
中盤まで、誰の何の話かわからなかったが・・・
あまり刑事に見えない若い男ヤンが、開発主任の変死について捜査していることはわかるものの、果たしてこの映画が誰の何の話なのか判然としないままに、激しいカッティングの波に飲まれ続ける。
かつて刑事であったヤンの父が、失踪したアユンの捜査中に事故にあい身体障害を負ったことが明かされたところで、ヤンの捜査に対する不可解なほどの執着が、父を抜け殻のようにしてしまった敵=開発会社社長ジャンに対する復讐心であることが判明する。
そして中盤で唐突にヤンとの肉体関係を取り結んだタンとリンの娘・ヌオについても、そのグロテスクな出自と家族関係が明かされることで、この話がヤンとヌオという若い世代の二人による親世代への復讐譚であることがようやく理解される。
前後の脈絡なくヤンとヌオが互いを求めあう展開に戸惑ったが、これは二人がジャン、リン、タンの共犯者らに対する復讐という責務を担っていたがためのものだったのだ。
(にも拘わらずラストでヤンはあっさりヌオを捕まえる。あれれ・・・)
説話上のサスペンスについて述べてきたが、それよりも観る者を驚かせる細部が本作にはしばしば発生する。
なぜ致命傷を負ったはずのユアンは、ガソリンで引火されたところでふいに立ち上がらなければならなかったのか。説話的な必然性が欠如しているからこそ、そのふいうちに思わず目を見開く。
タンの付き人が撮っていたユアンに似た人物が暗闇の中でこちらに視線を向けた不鮮明な画像。そのおぞましさは黒沢清を彷彿とする。
刑事ヤンが幾度となく発揮する、他人から撮られ、見られてしまうという特性の滑稽さ。
そして、大抵の作品で好ましい使われ方をされないドローンによる空撮が、全く嫌みのないやり方で多用されていることに、驚きと共に首肯せざるを得ない。
ここでのドローンは、ドローンで撮っているだけで新しい画が撮れていると錯覚しているあの間抜けな“ドローンの空撮”という使い方ではなく、ドローンという手段を用いた“より機動性の高いトラッキングカメラ”という認識で使われているのだ。
だからハンディカメラによるブレの画面が続くのに疲れる中で、滑らかに被写体をフォローし、接近するドローン・トラッキングショットに安心すら覚えるし、あくまで一つのトラッキングショットとして模範的にモンタージュされるショットのつなぎも実に心地よい。
果たして本作を超えるアクション映画が今年他に登場するだろうか。