「懐かしくも新しいヤクザモノ」辰巳 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
懐かしくも新しいヤクザモノ
暴対法が施行されたのが1992年。当時暴力団員は9万人程度いたらしいですが、その後30年余りの年月が経ち、現在は2万人そこそこまで減少したとか。少子化の波はヤクザの世界にも確実に訪れているようですが、他の業界と比べてもその落ち込みぶりはすさまじく、現実のヤクザの世界を産業に譬えるなら、まさに斜陽産業の際たるものと言えるでしょう。そうしたご時世を反映してか、最近のヤクザ映画は「ヤクザと家族 The Family」とか「すばらしき世界」など、時代に取り残されたヤクザや、元ヤクザの悲哀などを描いたものだったり、「JOINT」のように名簿売買とか詐欺などの経済犯罪寄りのヤクザの姿を描いた作品が目立っていました。
そうした中にあって本作は、古き時代の暴れん坊、無法者としてのヤクザ像を真正面から描いており、懐かしさと同時に新鮮さすら感じたお話でした。主人公の辰巳は、死体の解体と処理を担当しており、死体の解体シーンは決定的にグロいところはギリギリで映し出してはいなかったものの、暴力シーンも含めてかなりドギツイ作品でした。それでも話のテンポが非常に良く、ダレる場面が全くなくて次から次へと艱難辛苦が襲って来るので、観ていて飽きませんでした。
登場人物のキャラクター設定も際立っていて、主人公の辰巳はかつて自分の弟を自らの手で殺めたことのトラウマを抱えており、それが直ぐに唾を吐きまくるエテ公のような葵を救う伏線として効いていました。葵はどうしようもないエテ公でしたが、やがて辰巳と協力関係を築いていくようになり、何となくサルからヒトに進化したような気配も感じられました。そして何よりも圧巻だったのが、敵役の竜二でした。人の命をなんとも思わないのは他の登場人物も同様でしたが、性的にもヘテロではない雰囲気を醸し出しながら、躊躇なく人を殺すという、ホントの悪者という感じが十二分に伝わって来ました。
そして驚くべきは、竜二役の倉本朋幸が、本職の役者ではなく、舞台演出家が本業だということ。世の中表に出ていなくても、凄い才能の持ち主はいるものだなと、感心させられました。勿論主役の辰巳役の遠藤雄弥もカッコ良く、迫力満点でした。そして観客から間違いなく反感を買う役柄を見事に演じた葵役の森田想も、遠藤に負けない芯の通った演技を見せてくれたと思います。
限られた予算で創られたと思われる作品でしたが、シナリオと俳優陣の演技で、かなり面白い作品は出来上がるのだと、改めて認識させてくれた作品でした。
そんな訳で、本作の評価は★4とします。