「タイタニック+ハクソー・リッジ ≒ この映画か?」セイビング・レニングラード 奇跡の脱出作戦 Naakiさんの映画レビュー(感想・評価)
タイタニック+ハクソー・リッジ ≒ この映画か?
この映画は、はっきり言ってプロパガンダ映画と言える。ただ悪しき、人の考えを一定方向に向ける思想的なものではなく、あくまでも国内向けの戦時下の”血塗られた惨劇”とまで言われた海難事件のロシア国民の犠牲に対しての賞賛であり、賛美の意を国家挙げて祝うための映画作りがされている。しかも完成したのが、エンドロールでもわかる通り、 ”on the eve of the 75th anniversary of the lifting of the blockade in Saint Petersburg (Then, Leningrad)” に合わせている。
映画の幕開けに相応しい音楽の中、現在の風光明媚なサンクト・ペテルブルグの街並みが映し出され、その後1人の老女がアパートの室内を自ら車椅子を押している姿を正面からでなく背面から追うように撮影されている。"I'm sorry, but I don't have a single photo of him." というドキュメンタリーの撮影クルーにかわす言葉で始まる。そして彼女の回想シーンが始まり、この映画が始まる。
スクリーンは1941年にフラッシュバックをする。ロシアのスラブ民族にとっての重要な軍事産業の都市であるにもかかわらず四方をドイツ軍に囲まれ、また制空権もドイツ軍に握られているレニングラード。おまけに映画の中のドイツ軍将校の台詞から、レニングラード最大級の食料庫も破壊したと報告されていた。870日以上が経って、ドイツ軍から解放されるまで、一説には、レニングラードだけで、人口の約半分の100万人が犠牲になったのではないかといわれるほど多くの犠牲者が高々2年半も経たないうちに亡くなっている。日本人の第2次大戦中に亡くなった方の人数よりもロシアの一都市でしか過ぎないレニングラードで亡くなった方のほうが多い人数であると改めて知らされる。しかも悲惨なこととして、亡くなった原因が、食料庫を破壊された飢餓によるところも大きいという事。(100万人と紹介されたのが、the japan timesより、また別の資料では、40万人となっている。)
映画の半ばに差し掛かるとレニングラート近辺で起こるドイツ軍との迫撃戦の場面と移り変わる。日本人が好きな"ハクソー・リッジ"のような手りゅう弾や砲弾が異様に破壊力のある演出をしている’まがい物’映画ではなくて、本作では、急斜面の丘の上に陣取るドイツ兵に対して、貧弱としか言えない武器や弾薬での突撃シーンは、飲んだくれのあのメル・ギブソンや馬鹿げたお祭り騒ぎの映画しか撮れないジョン・ウーとは一線を画し、真正面から戦争の現実と悲惨さを真摯に受け止めた撮影と映画作りがなされている。言いすぎました。謝るぐらいなら、書くなってか? しかも、映画の後半でのメインテーマとされる一般市民が、レニングラートを脱出する場面では、すでにラドガ湖周辺の制空権はドイツ軍のものとなっているため、ドイツが誇る戦闘機・メッサーシュミットによる空からの攻撃を避けるため、夜間にしかバージと呼ばれるおんぼろ平底船が航行を許されず、また時間も夜明けまでは10時間余りなのに対して、このおんぼろ船ではどう見積もっても12時間は、かかってしまう。居住環境なんて無視をしたような狭い荷物用の船底にいる1500名にのぼる一般市民の運命は.....いかに?
首をかしげたくなうシーンもあり、メッサーシュミットとの交戦シーンで取り上げた英雄的兵士のシナリオは、少し過剰演出で現実的ではありえないと思える。そんな中でも男女の淡い恋心を映画に取り入れて、あたかも”タイタニック”の戦争版張りの演出もされているので、一切のエンタティメント性を分断したようなモキュメンタリー映画にはしていないことから、それなりに楽しむことが出来る映画作品となっている。
メッサーシュミットの攻撃を受けたバージ752とその船に乗っている1500名の命が.......!?
先日観た映画「T-34」というロシア製映画でも見られるように名目予算はわずか800万ドル。プロデューサーの1人ジュリア・イワノワは、2018年5月にカンヌ映画祭で説明している。「コストを削減することができました。」と、この映画でも同様なことが言えて、日本円にして製作費約4億円って? ありえない。その様な生臭い事は置いておいて、サンクト・ペテルブルグにあるピスカリョフ記念墓地において、プーチン大統領が献花を捧げているニュースなんかを見ているとロシアにおいては、亡くなった一般の方々の冥福を祈るとともに、英雄としてたたえていることがよくわかる作品となっている。
少し言わせていただきたいことがある。[MDGP]上映委員会という配給会社。胡散臭すぎる。何故かって、映画の顔とも言えるポスター。発注した人間もポスターを制作した人間もこの映画を実際には、見ていない。メッサーシュミットの機体はツートンカラーではありませんし、この映画に登場するのは2機だけになっています。しかも、ハリウッド映画で描かれているような残虐性だけを演出している、いつものドイツ兵ではなく、使命を忠実に守り、気高さも垣間見ることのできるドイツ空軍士官の落ち着いていて、尊敬もできるようにも描かれ、敵国の軍人に対して敬意を表している映画に対して、映画配給会社自ら足を引っ張る行為をしていると言わざるを得ません。英語版・ロシア版のポスターを多くのサイトではみることが出来、唯一日本のものだけが’まがい物’の勲章を得ています。重箱の隅をつつくものより。