「探偵は私たちにあらずポアロにあり」ナイル殺人事件 marumeroさんの映画レビュー(感想・評価)
探偵は私たちにあらずポアロにあり
終盤の、犯人は誰か、という部分については、全容は推理できずとも、正直言って想像の範囲内といえます。その根拠というと説明が難しいですが、一番無理のない想像であり、かつ素人ながらにそれであれば納得できると思う想像、といえば嘘になりませんでしょう。だから、はっきり言ってしまえば、犯人が明らかにされたことそのものについては、大した驚きも面白さも感じることはできませんでした。
しかし、本作の-或いは名探偵ポアロシリーズの-面白いところは、探偵は私たちにあらずポアロにあり、ということだと思います。つまり、ポアロが何を見て、何を知り、どのように悩み、犯人の仕掛けたトリックにどのように気付き、どのように犯人を追い詰めるか、というところこそが面白いのです。要するに、探偵ポアロの動向や思考を楽しむものなのだと思いました。ポアロの癖のあるキャラクター性もその為にあるといってもいいのではないでしょうか。私たちは安全な場所で徹底的に観客であればいいのです。
さて、前置きが長くなりましたが、私はまさしくポアロを存分に楽しめました。なんて魅力的なのでしょう。この点で言うと『オリエンタル急行殺人事件』よりも一層惹きつけられました。
物語はというと、テーマというべき部分は明確でありながらセンセーショナルでドラマチックであり、哀愁漂い非常に魅力的です。
全体的な構成でいうとコミカルな部分とセンチメンタルな部分のメリハリが良く、こちらの感情を気持ち良く刺激してくれます。
ですが、自分で前言と矛盾するようなことを言いますが、ミステリー好きとしては「犯人は誰か」というところに、やはり驚きや面白さを求めてしまうのは仕方のないことで、どうしたって物足りなさを感じてしまったのは許して貰いたいところです。あと、これは個人的な趣向になってしまうのかもしれませんが、映画一本の時間的な比率として、第一の殺人までがちょっと冗長に感じてしまいました。そういうところで⭐︎一つマイナスさせて頂きます。