「愛は異なもの罪なもの。 ポアロの髭に悲しき過去…ってそれいる!?」ナイル殺人事件 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
愛は異なもの罪なもの。 ポアロの髭に悲しき過去…ってそれいる!?
ケネス・ブラナーが名探偵ポアロを演じるミステリー「エルキュール・ポアロ」シリーズの第2作。
ナイル川を行くクルーズ船内で発生した殺人事件に、”灰色の脳細胞”エルキュール・ポアロが挑む。
○キャスト
エルキュール・ポアロ…サー・ケネス・ブラナー(兼監督/製作)。
クルーズ旅行の主催者にして大富豪リネットの夫、サイモン・ドイルを演じるのは『ソーシャル・ネットワーク』『君の名前で僕を呼んで』のアーミー・ハマー。
サイモンの妻である大富豪、リネット・ドイルを演じるのは『ワイルド・スピード』シリーズや「DCEU」シリーズのガル・ガドット。
リネットの親友でサイモンの元婚約者、ジャクリーン・ド・ベルフォールを演じるのはドラマ『セックス・エデュケーション』シリーズのエマ・マッキー。
製作はサー・リドリー・スコット。
アガサ・クリスティが原作小説「ナイルに死す」を発表したのは1937年。その後、1978年に初の映画化、2004年にはTVドラマ化しており、今回が3度目の映像化。ちなみに私、1978年版も2004年版も未見であり、更に原作小説も未読であります💦
はじめに申し上げておきますが、自分はケネス・ブラナー版ポアロが結構好き。
世間的にはデヴィッド・スーシェ版ポアロがよく知られているし、スーシェのポアロしか認めん!というコアなファンも居るとは思うのだが、スーシェ版に思い入れのない自分としてはケネス演じるポアロの、切れ者なんだけど神経質で嫌なオヤジという感じに惹かれます。
超豪華なキャストが集結するのもこのシリーズの魅力。
ジョニー・デップ、ミッシェル・ファイファー、ペネロペ・クルス、デイジー・リドリーなど、異常なほどのキャスティングだった前作に負けず劣らずな、…まぁ正直言うと前作からはパワーダウンした感は否めないが、ガル姐さんやアーミー・ハマー、レティーシャ・ライトなどが出演するという華ありまくりなキャスティングは見事🌸
今回目を見張ったのは衣装の美しさ✨
1930年代の服飾には全く詳しくないので本作の考証が正確かどうかは知らーんのだけれど、まぁとにかくどのキャラクターの衣装もカラフルでスマートでコケティッシュ!ボタンとネイルを同色で合わせていたりと、とにかくお洒落なのです♪
特にガル・ガドットの衣装がとにかく魅惑的💕まさかの”童貞を殺す服”にはドキドキが止まりませんでした…。鼻血ブーーーッ!!
夢に出るほど淫靡なガル姐さんの姿を拝めただけで、本作を鑑賞した価値は十分にあったと言えるでしょう。
全編に渡り撮影はイギリスで行ったらしい。
せっかくエジプトが舞台なのだから、どうせならCGやセットではない、実物のピラミッドや遺跡を見せて欲しかったところだが、これに関してはコロナ禍もあったし仕方がなかったのかも。とはいえ、殺人の舞台となる豪華客船カルナック号は実物大のセットを組んで撮影したらしく、その臨場感は抜群。
背景などのCGっぽさが気にならないといえば嘘になるが、セットのクオリティが素晴らしいので映画への没入感が損なわれる事はなかった。
前作とは違い、今回は事件の顛末や犯人など、内容を全く知らない状態で鑑賞。そのため、誰が殺されるかわからない展開にはかなりハラハラ。犯人に関してはまぁそうでしょうね、という感じだったが、それでもミステリーとして十分に楽しむ事が出来たように思います。
80年以上前に書かれた小説が原作なのだから意外性や先進性はないものの、王道を征く展開には安心感がある。ちょうど良い娯楽ミステリーだったと思います。
…ただ、前作以上に気になる点が多かったのも事実。
まずもって言いたいのは、ポアロの過去なんか描くのは不要だと言うこと。
原作を全く知らないものの、冒頭で描かれるポアロの過去が映画オリジナル要素であることは容易に想像がつく。だってその後の物語と温度感が全く違うもん。
アガサ・クリスティはポアロの過去についてほとんど描かなかったらしい。製作陣はそこに目をつけ、ポアロの過去を描写することで彼の人物像に肉付けをしようと試みたようだ。
…いや、多分そこクリスティ女史はあえて描こうとしなかった部分なんだと思いますよ。
名探偵というのは「神の視点」を持った存在でなくてはならない。物事を俯瞰し、隠された真実を探り出す存在である彼らにとって、感情移入できるような人物造詣は不要。
名探偵は物語世界の真理を見破る神的な存在だからこそ良いのであって、ポアロもれっきとした人間だったのです、なんて陳腐な人物説明は蛇足でしかない。
大体なんだよ顔の傷を隠すために髭を生やしてたって…😅髭生やすくらいで隠れる傷だったら、最初から気にすんなっつーの。
第一次世界大戦なんて、それこそ四肢の欠損した傷痍軍人がたくさんいただろうし、そういう人たちを差し置いてそれしきの傷を気に病むなんてそれどうなのよ?それよりも生きてたことに感謝せんかい。せめて『バットマン』のトゥーフェイスくらいドロドロの顔面になってから落ち込んで欲しい。
クライマックスでポアロが髭を剃ってたのも意味がわからん。シスター・ロゼッタ・サープのパチモンみたいなブルースシンガーと出会ったことで心の傷が癒えたのか?そんなにこの2人、作中で絡みあったっけ?
もう一つ気になったのは時間の配分。
まさか映画の開始から1時間近く殺人事件が起こらないとは思ってもみなかった。これじゃ「ナイルなかなか殺人起こらない事件」だよ〜🌀
ガル・ガドットの美しさのおかげで観ていられたが、それがなかったら退屈さでこっちが殺されていたかも。
前半1時間をセットアップに費やした結果、後半の1時間はとにかく忙しない。前半の静けさが嘘のように人が死にまくる。
そのスピード感は良かったものの、推理パートの作業感はいただけない。とにかくポアロが天才すぎるおかげで、「えっ!もう真相わかったの!?ほとんど推理してなくない?」という感じに事件の謎が解き明かされてしまう。もう少し観客にも推理のドキドキ感を味わわせてくれよ!
ポアロの人物像が掘り下げられた代わりに、事件の被害者や容疑者に関しての掘り下げは不足している。
殺されたリネットがどういう人物だったのか、サイモン&ジャッキーが何を思い犯行に及んだのか、そのあたりのことがほとんど読み取れなかったため全くドラマ部分に感情が乗っていかなかった。
特に問題ありだと思うのは前作から引き続き登場しているポアロの親友ブークの扱い。
てっきりホームズにおけるワトソンのようなポジションになっていくのかと思いきや、物凄く雑に処分されてしまった。こんなことなら登場させなくても良かったのでは…?
面白みのあるキャラクターだったし、今後まだまだ成長する余地を残していただけに、2作目で退場してしまったことが残念でならない。
キャスティングは見事だと思う。ただ、細かいことを言うとガル・ガドットとレティーシャ・ライト、そしてエマ・マッキーの3人が同世代とはどうしても思えない。
レティーシャ・ライトとエマ・マッキーは実年齢も近いし同世代に見えますよ。ただ、どうしてもこの2人と比べるとガル・ガドットはおばさ…もとい、お姉さんに見える。実年齢も10歳くらい上だし。
この3人をキャスティングしたかったのであれば設定から変更しないと。さすがにガル姐さんとレティーシャ・ライトが同級生は無理あるって💦
ちなみに、2004年のドラマ版でリネットを演じていたのはブレイク前のエミリー・ブラント。それを踏襲して、今回はエミリーをジャッキー役にキャスティングしていれば、話題性もあるしガル姐さんとの年齢も釣り合うしでとっても良かったんじゃないかと思うんだけど…。エマ・マッキーが悪かった訳ではないんだけどね。
とまぁ、ぶっちゃけると不満点も多くある映画だった。
とはいえ普通に楽しめたことは確か。続編の公開も決定しているようだし、次は劇場で鑑賞しても良いかなと思えるくらいにはこのシリーズのファンになってます♪
巷では本シリーズを中心とした「アガサ・クリスティ・ユニバース」の制作が噂されたりしているようですが、どうせならホームズやルパン、マーロウや明智小五郎なども登場する「名探偵シネマティック・ユニバース」を作ってみたらどう?