「できるだけ大きなスクリーンで観るべき」ナイル殺人事件 SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
できるだけ大きなスクリーンで観るべき
原作はたぶん読んだのだが、子供のころだし、ほぼ完全に忘れてるので犯人探しを楽しめた。
前作のオリエント急行と同様、豪華な雰囲気と映像を楽しむ映画。
豪華、というのは、貧富の差とか、使用人や身分の低い人への理不尽な扱いとか、人種差別とか、現代の倫理観では否とされるような行動も含むわけだが、なぜだかそういう非道い描写も、郷愁を感じさせる。
ピラミッド、ナイル川、アブ・シンベル神殿…悠久の時を感じさせるエジプトの風景の美しさは素晴らしく、もうエジプト行かなくていいかな…、と思ったほど。
できるだけ大きなスクリーンで観るべき。
華やかな結婚式にババーン!とあらわれた「招かれざる客」のジャクリーンは、まるで「眠れる森の美女」のマレフィセント。この映画で一番印象に残ったのがこのシーン。
映像を楽しむ映画、とわりきれば素晴らしい映画だが、ミステリーとして面白かったか、といわれれば微妙。
名探偵もののパターンをある程度知っていれば、正直犯人やトリックに意外性は無い。
でもそもそもがこの原作が名探偵ものの古典なのだから仕方ない。
映画の作り手も、トリックを本気で考えさせる映画としては作ってはいないように思う。
「この殺人はあらゆる可能性を検討しても不可能である」ということが、登場人物たちにも、読者(視聴者)にも十分考えさせて、了解された上で、「The murder is here」と宣言されるのがシビレルのに、それを考えさせる時間はなかったように思う。
原作はどうだったか知らないが、この殺人のトリックと犯人は納得感が薄い、と感じた。
まず、そもそもの計画だけど、ジャクリーンにとって、サイモンが裏切る、もくしは心変わりする、という可能性は考慮に入れなかったのだろうか? サイモンはべつにリネットを殺さなくても、リネットと結婚できるだけで十分なお金を手に入れられるのに、わざわざ殺人というめちゃくちゃでかいリスクを負うようなことをするだろうか? サイモンとジャクリーンがふつう考えられないほど愛し合っていたら、考えられなくもないが、そこまで深い絆で結ばれているというような特別な理由(たとえば別の殺人の共犯だとか)は示されていないし、サイモンはお金目当ての要素が強いぽいので、なんだか腑に落ちない。
で、この計画自体も穴だらけな気がしてしまう。ジャクリーンが空砲を打って、サイモンが足を撃たれた演技をした、その後。打たれたという足を無理やり押さえつけられて、傷口見られたらどないするつもりだったんや? 「あれ、撃たれてないじゃん。なんで撃たれた演技したの?」ってなっちゃう。
で、なんとか「痛い痛い!」ってあばれて傷口見られないようにしたとしよう。でもそのあと、普通怪我人を一人ではほっとかないでしょ。サイモンを誰かがずっと介抱する、ということになったら、サイモンが単独行動できなくなってしまう。
あと、最大の謎が、なんで名探偵で名高いポワロがいるのに、計画を強行しちゃったかなー、というところ。サイモンにとって、リネットと結婚してしまえば、それこそ殺人のチャンスはいくらでもあるはずなので、ポワロがいるときに込み入ったトリックを使って殺人を犯すことがどう考えても分が悪い。
まあ、これらの疑問を解決する合理的な理由が映画の中で示されていたのかもしれないが、僕にはわからなかった。たくさんの人物たちがそれぞれどこで何をしているか、把握できていなかったからかもしれない。
そういえば、ポワロがサロメに惹かれた理由もよく分からなかったなあ。