「丁寧なリメイクだが改変には賛否がありそう」ナイル殺人事件 アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
丁寧なリメイクだが改変には賛否がありそう
字幕版を鑑賞。2017 年公開の「オリエント急行殺人事件」に続くケネス・プラナーによるリメイク作品で、2020 年公開の予定だったがコロナのせいでここまで延期になったものである。私は 1978 年版の前作も見ている。原作にも前作にもない改変が加えられており、それが犯人解明に至るプロセスに関わる部分であるため、賛否両論があると思われる。
映画は第一次大戦のシーンで始まり、若き日のポアロの姿と口髭を蓄えるに至った理由が語られている。ポアロの人生の大きな転換点となった話であり、今作の大きなテーマの「愛」に関わるエピソードとして話の奥行きを与える趣向で、愛が目的で殺人を犯す者もいれば、忘れられぬ愛のせいで自分の一生の送り方を決めた者もいるということである。このエピソードに限らず、この映画は尺の使い方がかなり贅沢な感じを受け、先を急がずそれぞれのシーンを大事にする姿勢が感じられる。127 分という普通の長さの作品でこの姿勢を貫くのは大変だと思うのだが、ストレスは感じられなかった。
原作と前作で作家という設定だったサロメは黒人歌手に変えられ、娘設定で前作ではオリビア・ハッセーが演じていたロザリーも、それに応じて変更されていたほか、重要人物と熱愛設定になっていたのは、BLM に対する配慮だったのだろうか?音楽の要素が加わったのは良いが、英国人がアメリカの黒人音楽を好んでいるというのはやや雰囲気を乱していたような気がした。
登場人物一人一人に詰問調で迫るポアロの態度はちょっと異様であり、あの詰問がなければ、証人が犠牲になることはなかったのではないかという気がして仕方がなかった。考えてみれば、ポアロさえいなければ、死者は最初の一人だけで済んだのではないかという思いがぬぐえなかった。もっとも、それでは犯人の計画がまんまとうまく行ってしまうことになるが、ポアロがいたために死者が激増したのは疑いようがない。ポアロがそのことに全く反省していないのには釈然としないものを感じた。
音楽は前作がニーノ・ロータだったのに比較するとやや小ぶりな感じを受けたが、「オリエント急行殺人事件」の音楽の人と同じ人で、非常によく映画の雰囲気を高めていた。エジプト風の雰囲気を出すためにドリア旋法を駆使しているところなどは感服させられた。前作と違ってエンドタイトルで何の関係もない歌謡曲が流れなかったのも好感が持てた。この調子でリメイクが続くのであれば非常に楽しみである。
(映像5+脚本4+役者4+音楽5+演出4)×4= 88 点。