「「クリスマスの奇跡」では言いくるめられない」ラスト・クリスマス 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
「クリスマスの奇跡」では言いくるめられない
「ゲーム・オブ・スローンズ」を観ていない私がエミリア・クラークを知ったのは「世界一キライなあなたに」という映画。メロドラマのようなストーリーの中において彼女の印象的な笑顔とチャーミングさが目に焼き付いてしまい、是非とも彼女をヒロインにしたロマンティック・コメディを作って欲しいと願っていた。それが今回は叶ったわけである。厳密にいえばロマンティック・コメディでもないのかもしれないけれど、特に前半部分はかなりロマコメ要素が強め。嬉しい限り。
ヒロインのケイトはかなり問題のある女性である。ただそれを魅力に転換させることが出来たのはエミリア・クラーク本人の魅力に他ならないと思う。ケイトがお騒がせなことをしても、クラークのチャーミングなスマイルがそれを魅力に変えてしまう(同性愛をアウティングしたのはさすがに許せないけど)。ヘンリー・ゴールディングもまた、今どき珍しいほど「ハンサム」という言葉が似合う紳士で、気障ったらしい振る舞いをしても画になるし様になる。二人の好感の持てる掛け合いはいまにもロマコメらしいもので、気持ちよく観ていた。とは言えもちろん、二人の存在というかトムの存在がどこか宙に浮いたような非現実感があることは気づいていた。あまりにもパーフェクトすぎるし、あまりにも聖人君子すぎると。そして実際、二人が「普通」と「特別」について語り始めたあたりから、この映画がロマコメではなく「クリスマス映画」であることを思い出させる。
この映画はラブストーリーではない。「クリスマスの奇跡」の物語である。クリスマスに起きた奇跡。ただ、まさしくこの映画の本題とでもいうべきその「クリスマスの奇跡」が、どうしても私には腑に落ちなかった。ケイトの身に降りかかったクリスマスの奇跡は、たしかに驚きを伴うものであるし、なるほどとも思った。ただそこから遡ってよくよく考えると、感動より先に恐怖が沸き起こった。もし私がケイトの立場なら精神科に駆け込むところだ。見える筈のない人が見えて、しかも会ったことのない心臓移植のドナ―で、知るはずのない名前や住所やボランティアをしていた場所までわかってしまうのだから、半分「世にも奇妙な物語」である。それを「クリスマスの奇跡」で言いくるめるのはいくらなんでも無理があるだろう。
心臓を移植された女性が自分の「心」まで失ってしまったように感じ、心臓移植のドナ―に思いを馳せるというのは物語として悪くない着眼点だとは思う。だから普通に「今この胸の内で鼓動を鳴らしている心臓を提供してくれた人はどんな人だったのかを自ら探し出す」という心の旅ではダメだったのだろうか?「ロマコメと思わせての驚きの展開」といものにこだわるあまり、物語に無理が出て、余計な違和感を残したように思う。
ただ「I gave you my heart」をこんな風に解釈したのはなかなか面白いと思ったけどね。