「文化も想いもこうして伝わっていく」もち ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)
文化も想いもこうして伝わっていく
子供の頃に学校行事で「何でこんなことをやるんだ?」と思ったことはないだろうか?だが、故郷を離れてみるとそれがその土地独自の風習であることに驚かされることがしばしばある。本作の舞台は岩手県の一関市にある小さな集落。そこに残る“餅文化"を通じて交わる人間模様をその地に住む14歳の女の子・ユナの目線でドキュメンタリー調に綴っていく。
祖母の葬儀のシーンから始まる本作には2つの死の意味が込められている。一つは家族の死、もうひとつは文化の死だ。市町村合併、少子高齢化、そして過疎化などで消えてしまった文化も多いだろう。文化が消えるということは、その土地の死を意味することと等しい。家族の死も同様だ。誰かに恋をし、家庭を築き、家族を残さなければ次世代へ自分の想いは残らない。文化も家族もどちらも人がいてこそ伝わっていくことを優しく観客に教えてくれるのである。
子や孫に幸せに育ち、穏やかな家庭を築いてもらいたいというのは普遍的な価値観であり、地域の文化や想いを残したいというのはその地で終を迎える者の願いであろう。だが、過疎化や少子高齢化が進む地域ではそれさえも難しい。それでも本作に登場する大人たちは決してその気持ちを押し付けがましくは伝えない。故郷の文化やそこに生きた人たちの想いはやがて忘れられていくかもしれないと思いつつも、日常を通じて、その土地に生まれ育った子供たちへ自分たちの文化を伝えていく。祖父との会話、閉校を迎える学校での先生の姿は印象深い。
その想いが子供たちに正しく伝わるのかは分からないし、餅文化の学習のシーンで足が痺れてしまい学習どころでない生徒がいるのも微笑ましい。だが、物語の後半でユナは餅をあることのために使う。それは彼女の人生において一大イベントであると同時に彼女が餅文化を自然に継承したのだと感じさせてくれる。彼女もその土地で大人になり、やがて家庭を築くのだろうか?少しだけ大人になったユナが自転車を漕ぎだすラストシーンにはどこか前向きな力強さが感じられる。文化も想いもこうして伝わっていくのだ。