「観た後に味がする、大人向けエンタメ」ソウルフル・ワールド キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)
観た後に味がする、大人向けエンタメ
正直に言うと、観賞直後はあんまりピンと来てなかった。
いつもどおり、エンドロールをボンヤリ眺めながらお話を思い出してみていると、悪役は出てこない、大きな願いが叶うワケでもない。もっと言えば、この後、主人公達が幸せになったかどうかも分からない。
あれ?
「幸せ」って、敵を倒したり、夢が叶って脚光や名声を得たりすることだっけ?それだと、大多数の一般人は幸せじゃないってことになる。
床屋のシーン。
すごく良かった。
別の仕事を目指したけど、いろんな事情で床屋になった。でも、今すごく幸せなんだって。
「何か実績を残さないと存在価値がない。」
「結果が出なければプロセスも無意味。」
「モブ」ではダメ。「メイン」でなきゃ。
「夢は叶えてこそ意味がある。」
大人になっていくと、学校や親・会社といった他者はもちろん、自分自身によって、そんな圧力で追い詰められながら生活する時間がどんどん長くなる。
いつの間にか「チャレンジすることに意味がある」なんてフレーズさえ古臭く感じるようになった。
もう猫も杓子も「結果出してなんぼ」。
でも、世の中の人たちって、みんな何かを叶えたから笑顔でいられてるのかな。
路上でギターをかき鳴らす若者も、道端で看板クルクル回してるおじさんも、「そこにある幸せ」を享受してるんじゃないの?
今の閉塞した日本では、大谷翔平とか藤井聡太とか、何かを成し遂げた人がその人格含めてこれまで以上に一方的に称賛されるけど、成し遂げてない人が不幸せなワケじゃない。
どんなに諭されても「煌めき」を見つけられなかった22番が、人間社会の日常に触れて感じた喜び。
「それ、ただの日常じゃん」
そう、それだ。
煌めきなんて、何か特別なものである必要はない。
夢を追うことも人生なら、それが叶わなかったこともまた人生の一側面。
我々をはじめ、多くの大人が「成し遂げなかった」ことを「恥」や「後悔」といった『呪い』にしてしまってはいないか。
これまで散々「夢を持て」「願いは叶う」と繰り返して来たディズニーが、それによって必然的に発生するストレスをケアしてくれてるのかな。
3年前にコロナでこの劇場公開を見送った事実はどうにも納得しがたいが、ここしばらく「Perfect Days」とか「夜明けのすべて」とか、日常に着眼した傑作が続いた分、この時期の上映は特に良かった。
そしてラスト。
ジョーの
「一日一日を大切に生きるさ」
サイコーな明言でした。