「あなたが見出だす生きるきらめきは…?」ソウルフル・ワールド 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
あなたが見出だす生きるきらめきは…?
最初の長編作『トイ・ストーリー』がそうであったように、やはりピクサーは見た事ない世界を描いてこそ面白い。
これまで様々な世界を描いてきたが、中でもとびきりユニークだったのは『インサイド・ヘッド』。人間の頭の中の感情を擬人化なんて、よく思い付いたもんだ。設定負けにならず、話自体も誰もが共感出来る自分探しになっていたのも素晴らしい。今夏の続編にも期待。
それから、昨年の『マイ・エレメント』。こちらは元素を擬人化し、移民などのテーマを刷り込ませ、家族愛やラブストーリーとして描き、なかなかだった。
実像が無いものを擬人化。もはやピクサーの伝家の宝刀とも言える。
実は、もう一本あった。コロナで劇場公開が見送られ、Disney+の配信のみになり、私もそうだが見る機会に恵まれなかった人も多いかもしれないが、これぞピクサー!…と言いたくなるオリジナリティーとクオリティーと面白さ。大絶賛評を獲得し、アカデミー賞でも2部門(長編アニメ映画賞と作曲賞)受賞。
ディズニー/ピクサーはそれが当たり前のように続いていた。が、昨今不発や鈍い評価続き、それが今や遠い夢のよう…。あくまで個人的見解だが、ディズニー/ピクサーが大絶賛評を獲得し、オスカーも受賞した最後の作品。これに続くディズニー/ピクサーの今後の作品は…?
話が脱線してしまったが、本作で描かれる見た事ない世界は…
中学で音楽を教えているジョー。
非常勤から正式雇用され、これで暮らしも安泰…が、ジョーの表情は浮かない。
ジョーには夢があった。ジャズ・ピアニストになる。
ある時それが実現するチャンスが。ジャズバンドのメンバーとして活躍する元教え子から、NYで有名なジャズ・ミュージシャンの舞台に立つ。
急遽の代打の話だったが、願ってもない話にチョー浮かれる。なので、注意していなかった。足下を。
ジョーは蓋が開いていたマンホールの中へ…。
マンホールの中に落ち、そこから脱出する邦画が昨年あったが、ジョーが気付くとそこは…
ただのマンホールの中にしてはおかしい。真っ暗の中を延々落ち続けていく。
そしたら宇宙のような空間へ。
そして辿り着いた先は…
あの世? 天国? 地獄? …とも言えない不思議な世界。
姿もヘンな姿に。落ちた時、俺、死んだの…?
後々分かるが、そうとも言えるし、そうとも言えない。
ここは、人間として生まれる前。魂(ソウル)の世界だった…!
感情、元素、本作では魂! 本当によく思い付く。凡人と想像力豊かなクリエイターの違いか。
それだけでも充分ユニークなのに、マンホールに落ちたその先に…ってのがさらにユニーク。
日常の思わぬ所から不思議な世界へ繋がっている…のではなく、落ちた時、魂と身体が分離してしまった丹波哲郎も驚きの臨死体験と言えよう。後で分かるが、ジョーは…。
ジョーは何が何でも元の世界に戻ろうとする。だって、人生の大チャンスが…。
ソウルたちのカウンセラー(キャラも世界もCGの中で、不思議な曲線のフォルム)によると、どんな人間になるか様々な“館”の中から自分に相応しい“きらめき”を見つけ出し、通行証を手に入れたら戻れる。
そんな中でジョーは、あるソウルと出会う。
“22番”と呼ばれ、かなりのひねくれ者、変わり者。地上世界は退屈。何百年もこの世界に留まっている。
ジョーは22番を相棒とし、元の世界に戻ろうとするが…。
主人公に相棒が付くのはディズニー/ピクサーの王道。
性格も真反対で、それでやり取りや物語にメリハリ付く。
真面目なジョーとマイペースな22番。目的があるジョーと目的などない22番。
やはり22番のキャラが面白い。個性的で、時々ア・ブ・ナ・イ言動。何百年もソウル世界にいるので、まだ人間になっていない後の偉人とも会っていたり。でもそのほとんどがちょっかい。
ソウル世界のカラフルでファンタスティックな美しさ。後々地上世界も舞台になるが、実写レベルのハイクオリティーさにはいつもながら驚かされる。
イマジネーション溢れる映像表現。
でもソウル世界の全てがファンタスティックではない。光あれば、闇も…。
また、お役所みたいなソウル世界のシステム。少々事務的で、融通利かない所は現実社会を皮肉。
そういう場に必ずいる。些細なミスや乱れも見逃さないしつこい奴。
ジョーと22番はあるソウルを訪ねる。
人が何かに熱中したり没頭したりすると、魂は“ゾーン”へ。
あまりにのめり込み過ぎ自分を見失い、また自分を見出だせないソウルがさ迷う闇の世界。
そこで迷えるソウルを救済するムーンウィンド。尚、地上世界では看板男。
彼の力でジョーが今病院で意識不明である事を見つけ出し(やはりこのソウル・アドベンチャーは魂と身体が分離してしまった臨死体験だという事が分かる)、いざ元の身体へ!
ところが!
この時22番も一緒に地上世界へダイブ。
何かの間違いで、22番がジョーの身体に。ジョーの魂はベッドにいた猫に…!
輪廻転生、大失敗…!?
地上世界のムーンウィンドを訪ね、元に戻る方法を探す。
ライヴの時間も迫っている。タイムリミットは夜7時。
ソウル世界の計算係。ソウルの数がおかしい事に気付き、地上世界へ降り、執拗にジョーたちを追う。
ジョーは元の姿に戻れるのか…? そして22番は…?
俺たち、入れ替わってる~?…な珍騒動はお約束。
初めて地上世界に降り立った22番。人間となり、何をするのも何を見るのも何を感じるのも初めて。歩くのも、ピザを食べるのも。
ジョー猫はお目付け役的な。22番のやる事成す事に注意。
まあ元に戻れたら…と思うとヘンな事は出来ない。
しかし22番のナチュラルさが不思議なくらい上手くいく。生徒へのアドバイス、行きつけの床屋の主人と初めてジャズ以外の身の上話、定職とジャズを巡って母親との関係…。
床屋の主人との話が印象的。本当は獣医になりたかったが、家庭の事情で床屋に。なりたかった夢になれなくて人生残念…? なんて事はない。今の人生だって満足。何が転職になるか分からない。
母親がジャズをいつまでも追う事を咎めるのは、父親がそうだったから。父親もジャズに熱中し、苦労の連続。生活を支えたのは母親の営む仕立て屋。息子に同じ苦労をさせたくない。母親の気持ちも分かる。でも、ジョーの気持ちも。俺には、音楽が全てなんだ。音楽をやる為に生まれてきたんだ。
夢見がちな意見かもしれないが、人は夢を持ってこそ。本心と本心で打ち明ければ、分かり合える。
それは22番も。
地上世界を体験する中で、生きる喜び、楽しさ、世界の美しさを知る。
22番が地上世界で体験した事は何も特別なものではない。日常の中でごくありふれたもの。
人と人の交流、美味しいピザ、心に響く音楽、陽光や舞い落ちる枯れ葉だって美しい。
生きるとは何と素敵な事か。最近観た『PERFECT DAYS』と通じるものを感じた。
ソウル世界では見出だせなかったが、この地上世界で見出だす。“きらめき”を…。
トラブル続いたが、何とか元に戻る方法もあり、時間にも間に合いそう。
ところが、ここでまたトラブル。元に戻るという事は、22番はまたソウル世界へ。
せっかく見つけた“きらめき”。22番は元に戻りたくないと拒む。逃げた所をジョーもろとも計算係に捕まり、ソウル世界へ。
22番と大喧嘩。つい、心ない事を言ってしまう。
ショックを受けた22番は…。
“きらめき”を見つけた22番の通行証で、ジョーは再び地上世界へ。元の身体に。何とかライヴに間に合った。
念願のライヴ。しかし夢を果たしたジョーの心中は満たされていなかった。
何かで人は、夢を達成したら燃焼し、空虚感すら感じると聞いた事ある。
夢に辿り着きたい。果たしたい。でもそれを果たしたら…。
何か夢や目的や意味があっての人生=生きるという事ではないのか。
それを目指して頑張る事、時には苦難もあって、乗り越える事。寧ろそちらこそ“きらめき”なのかもしれない。
ジョーは気付く。22番と共に、日常の中で見つけた幸せ、美しさ。
これが生きる。見つけた目的、意味。
ジョーはゾーンに入ってソウル世界へ。22番を探す。
何もかも見失った22番は、闇の世界で迷える魂になってしまい…。
ユニークな世界観や個性的なキャラの楽しさ。
ジョーは元の世界に戻れるかから、22番を救う事が出来るかへ。飽きさせないストーリー展開。
ドタバタも挟み、ファミリーでも楽しめるが、実は大人にこそ響く。
人生に意味を見出だせない迷えるソウル(=人)たち。
人生の目的。
生きるとは…?
哲学的なテーマが難しい事なく、自然と見る者の心に染み入る。それをファンタジーやエンタメや感動と絡めたピート・ドクターの見事な手腕。
ジャズも題材になっており、トレント・レズナー&アッティカス・ロスの音楽も心地よい。
見終わった時にはラストシーンのジョーの表情と同じく、心満たされているだろう。
この映画の中に“きらめき”を見出だして。
近大さん、共感ありがとうございます。
>生きるとは何と素敵な事か。最近観た『PERFECT DAYS』と通じるものを感じた。
「PERFECT DAYS」
同じことを感じながら観てました。
22番が、木漏れ日の中をプロペラの様に落ちてくる種に
心をときめかせ、大切に持ち帰る。
そのような場面があったかと思うのですが、まさに平山さ
んが日常に感じる喜びと同じだと感じました。
ついでにですが
ジョーの体に入ってしまった22番。
上手く体を動かせずに「壊れたロポット」のようにカクカク
と動いてしまう場面を見て「哀れなるものたち」のベラみた
だなぁ と思ってみてました。
ウォルト・ディズニーはチャップリンを手本にしていたらしいですよ
チャップリンのモノマネも得意でかなりの腕前だったらしいです
チャップリンもミッキーも言葉を使わず世界中の人達を楽しませることが出来たから今があるのだそうです
とある本を読んで納得しました。