劇場公開日 2024年4月12日

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「すごい作品。」ソウルフル・ワールド 山口輝昭さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0すごい作品。

2021年1月5日
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泣ける

笑える

知的

子供が暇そうなので試しに観てみた。子供は一瞬で飽きたけど、妻と僕はかなりハマった。というかショックを受けた。

一般的な見方で見ると、なかなか深い、心温まる大人向けのアニメ。でももしかしたらそれ以上なのかもしれない。

BLMからの最近の傾向を汲んでいますが、ソウルという、年齢や人種やジェンダーを超えた存在にまで昇華した。

新自由主義経済の限界がここ数年で明らかになって、世界的なコロナの影響で、人類の大きな転換期になっているこの時期、産業革命以降に課された、競争と発展のプレッシャーからの開放の一つの提案が示されている。すでに幸せ=報酬、または努力が成功ための道筋だという関係性そのものを無効化し、近代以降の、線状の歴史観さえも疑問視する。

それは90年代に流行ったニューエイジ的な世界観に新たな救いを求め、新しい世界での価値観、つまり、過去とミライの軛から開放されて、ただ生きることに幸せを感じろ、そのようなメッセージを受けた。

監督は十分に名の通った方であるのにも関わらず、ピクサーという会社は、チームの名前が常に前に立つ。ジブリが宮崎駿、スタジオカラーが庵野秀明という、中心人物の才能とネームバリューで成り立っていることと比較すると、その先見性が目に止まる。ディズニーが完全にマーケティング主義とも違う。複数の才能のあるスタッフで、共同でワンマンにも陥らず、商業主義にも、キリスト教主義にも陥らず、より良い作品を作るという姿勢が次世代のものだ。

大人向けの日本アニメのクオリティを完全に超えたと思う。同じ土俵に立って努力で超えたというよりも、方法論そのものが違う。目指すものが違う。

パラダイムシフトというと大袈裟かもしてないが、今までの僕たちの生きてきた世界観はここで終わりを告げ、これから何かが始まるのだと感じた。それは希望というよりも、恐怖だ。

山口輝昭