「まるでゲド戦記、影との戦い」Away 加藤プリンさんの映画レビュー(感想・評価)
まるでゲド戦記、影との戦い
いや、原作の方ですよ?w (某アニメ映画版だなんてとんでもないww)
Alto's Adventureを彷彿とさせる絵柄でアーティスティックな作風
劇判もとても良く、なにより、カメラアングルが特筆すべきシーンが幾つもあります
あの影である大男は、彼の中の恐怖や怖れの象徴で、
最初に飲み込まれてしまうのは、既に飛行機事故で彼の中に巨大な恐怖心を抱いており、
ひとりだけでそこから逃げ出した罪の意識でもあり
Capture1ではバイクや旅の道具を手に入れても、すぐには旅立てません
この描写が秀逸で、バイクを操縦する手元が狂って転倒するのは、
彼がおそらく腕の悪いパイロットだったからなのですね
ぐるぐる回りながら、恐怖の対象が視界の端にチラつき、操縦を誤るというのはとても秀逸なカメラワークですね
そして洞窟の中にいた骸は、恐怖から逃れられなかった彼のもうひとつの未来であり、
恐怖心に駆られ、恐怖心と向き合うという、
非常にネガティブなポジティブにより、ようやく彼は旅立つ最低限の勇気を手にします
この(ロードムービーの癖に、すぐに旅立たへんのか〜い!)にちゃんと理由があるのが素晴らしい
Capture2で影に反撃するも、その後、文字通りその影に怯え続けているのは、
やはり影は彼の中にある恐怖心そのものであり、一時的な誤魔化しでは隠しきれないということですよね
面白いのはロードムービーのバディであるキイロイトリさんは、早々にこのCapture2で
空を飛ぶことを得て、狩られる側ではなくなります
ロードムービーとしては早々の離脱となり、彼はその後、守られるべき存在ではなくなり、
むしろこの旅を(彼の精神世界構造を)俯瞰し、客観する役割を与えられます
あの橋から生還するシーンは本当に素晴らしい映像で、鳥さんはこれで恐怖心から脱却することができます
その後、他の鳥や生き物が影に飲み込まれ、近づくだけで力尽きるのに対し
キイロイトリさんだけは生き残り、羽ばたき続ける事ができるのは、このためなのでしょう
彼はその後、自分が墜落させた飛行機の残骸までたどり着き、犠牲者たちの影と向かい合います
そして自意識の井戸の底にある清水を口にし、自分の奥底にある気持ちに気づくのでしょう
ようやく、彼の中にある、自己中心的なものよりも、他者への思い遣りが強くなります
其れが、キツネに鳥さんが狙われているのを知りながら、自分の恐怖心を優先した利己的な彼が、
他の乗客を見捨てて、自分ひとりだけ助かろうとし、助かってしまった彼が、
亀を助けるという、良くわからないw他者への思い遣りを持つに至ります
あの亀はおそらく同一の亀で、途中でバイクで追い抜いてからも、彼が休んでいる間にも歩き続けている
アリとキリギリスでいうところのアリであり、つまり、物語上の善の象徴なのですね
必然的に彼はキリギリスであり、悪の役割を振られている訳です
悪役が善役を助けるという、つまり、彼が改心したという表現なのだと思います
その後、彼は影に呑み込まれますが、キイロイトリさんの勇気にも助けられ
(そう言えば彼は鳥さんにも果実や水を与えたり、鳥自身を影から救ったりしていますね、
彼は鳥に対しては善行を行っており、勇気の象徴としての、キイロイトリ、
其れが彼に勇気を与えるきっかけになり、最期には、彼を救い出してくれる手助けとなります)
彼はついに、恐怖心に打ち勝つ事ができます
旅の道具を失っても、もう大丈夫で、クライマックスの雪崩から海へのダイブは
彼の中で恐怖心はもうなかったのでしょう、勇気が打ち克つ感動的なシーンです
相棒であるバイクも補助輪のようなものですから、もう必要ありませんね
あの地図がなぜ河口がゴールで、街ではないのだろう?と思っていましたが、
あのように雪崩が定期的に襲う河口には街は作れませんからね、
なるほど、理に適った説明がある訳なのですね
ラストシーンの切り方もとても良くて、もう既に語るべきテーマは完了しているため、
この後の展開はこの映画に必要ないのですね
自分自身の生み出した影に追われ、影と向き合い、影と戦い、打ち克つのはまるで、ゲド戦記のようなテーマですね
そして絵柄は「Alto's Adventure」、メーカーはこの映画をバイクで駆け抜けるゲームにしてくれませんかね、絶対買いますよw