マロナの幻想的な物語りのレビュー・感想・評価
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愛と死をみつめて
まずは、その強烈なビジュアルセンスに驚く。シンプルな絵柄にしてインパクトある色彩。それでいてキャラがよく動くし、2Ⅾと3Ⅾ表現を巧みに使用する描写などは圧巻。昨年のベスト級だった『ロングウェイ・ノース』といい、本作とほぼ同時期公開の『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』といい、海外アニメは枠にとらわれない前衛的な作風が多いのが素晴らしい。このあたりは、アニメ先進国の日本も見習ってほしいもの。
鑑賞前に前情報を入れなかったので、てっきり犬好きの犬好きによる犬好きのための、『僕のワンダフルライフ』みたいな内容かと思っていたら、これほどまでに切なくて悲しい運命のお話なのに驚き。どちらかといえば『戦火の馬』に近いかも。
エンドクレジットで流れる主題歌が、本作の何たるかを歌っているので、退席するべからず。
自分は犬を含めたペットを飼ったことがないので偉そうなことは言えないが、今現在、犬を飼っている人はくれぐれも大切に。
綺麗すぎて切ない
アニメというか、アニメというくくりになるのかなぁ?
動く絵本?登場人物も背景も物体も何もかもが動いている。
動くことで性格も物体の状況も風景となっているその場所も
豊かに表現されている。
鮮やかな色で。
見ることができない絵本の1ページと1ページの間の
動きをこの映画は描いているのでは無いでしょうか?
それは物体が右から左に動くという類のものではなく
ページ間にあるであろう物語を語る・・という感じ。
それほど巧みです。
さて、内容は・・・あまりに見事なワンコの動きで
本物のワンコがそこにいる気がします。
なんていうんでしょう・・・うんうん、こういう動きするする!って感じ。
だからなんでしょうか・・・
ワンコ目線で人間とのエピソードが語られるのですが
絵本のなかのお話しなんだけど、おとぎ話っぽくなくて
妙に現実的で、そして想像されるワンコの気持ちが痛いほど
伝わってくるが故に、嬉しい、悲しい、切ない、の気持ちに
振り回されます。
この映画もう一度見たいです。
吹き替えで。
字幕読むために絵から目を離すのが本当にもったいないです。
マロナの円環
面白かったと、たった今観終えた映画を振り返るが、それで終わり。数時間後には観たこともわすれてしまう映画がある。
マロナの幻想的な物語は、そんな映画の対極にある。いまでも、何週間も前に観たこの映画のシーンが、まるで実際に自分が体験した過去の思い出であるかのように甦る。なぜ全体が絵画で作られた、それも抽象絵画で描かれた映画なのに、日々の刹那に、犬の一生、犬と関係した人たち、犬の生きた街・空・野原が繰返し思い浮かぶのだろう。
この映画のはじまりでマロナは、車が疾走するたびに消えゆく、
路上に描かれた一枚の「絵」であることが明かされる。マロナは、傍らに寄り添うソランジュに抱かれて、自分が生きて記憶している、その瞬間瞬間に感じた感情を、音を、色を、匂いを語りはじめる。
それがこの映画。
その回想は、私達から見ると抽象的にしか見えない。でも犬にとってはそのようにしかみえない、自然そのままの姿。
伸び縮みする曲芸師マレーノも、透明な人物も、顔がシワに陥没する神経を病んだイシュトバンの母親も、宙に突如現れる星も、意地悪なオレンジネコも…。
映画の中で私は、ソランジュとなって、犬にしか感じることのできない景色を見る。そしてそれが極彩色に彩られ祝祭に満ち溢れていることに胸がうたれる。
ささやかで慎ましい人生
犬を飼う人は犬が齎す幸福感を享受し、犬の世話をする義務を引き受ける。人間は勝手だから犬に飽きて幸福感が減って犬の世話をする煩わしさの割合が増えると、犬を誰かに譲ったり、そのへんに捨てたりする。しかし大抵の飼い主は犬によって脳内に増加したオキシトシンの働きによって、犬の世話をすること自体も幸せに感じるようになる。それが犬を飼う醍醐味なのだと思う。
本作品は擬人化された犬のモノローグ映画という珍しい作品で、主人公の雌犬マロナは、犬にとって何が幸せかをいろいろな場面で話して聞かせてくれる。動物学的な見解とは乖離しているが、その世界観は豊かで非常に美しい。ときに太陽系全体を見せられ、ときにミクロの世界を見せられる。想像力はどこまでも広がり、映像は凄くきれいである。
人間は愚かで不完全で移ろいやすい。マロナは犬だから飼い主のすべてを許す。捨てられても傷つけられても、マロナが人を傷つけることはない。理不尽な猫の怒りは理解できないが、柳に風と受け流す。諸行無常のこの世の中で何人かの飼い主と出逢い、そして別れる。マロナにとってそのすべてが肯定されるべき邂逅なのだ。
最後にはマロナが犬ではなく、かつて存在した聖人のひとりに見えてくる。そうか、これは犬の物語ではなく人の歴史、そして地球の歴史なのだ。無名の犬、無名の聖人、ささやかで慎ましい人生。とても美しい作品だった。
絵とか題材に不安を感じつつも最終的には
わんこの平凡な一生だし、何といっても絵が・・・カラフルだけどあまりのデフォルメ?感にかなりの不安。
あくまでわんこ目線、だからこその画風、そこは理解できるけれど、個人的にはあまり魅力を感じず。
わんこをはじめとしたキャラにも、見た目の良さを見いだせずにいただけれど、わんこの動きや仕草にはナチュラルなものを感じて、徐々に主人公に魅力を覚える。そうなると自分もわんこ目線になったかのような観賞眼となっていって、不思議と犬の気持ちになっていって、そして最後また人間目線になって哀しい気持ちになってしまった。
色んなわんこを思い出して切なくなってしまったれど、決して悲しい物語りなどではなく、しっかりと感動的なアニメ作品だと思います。
栗色のマロナ
マルチーズの父親とミックス犬の母親の間に生まれた9匹の犬の末娘の波瀾万丈な犬生物語。
何とも衝撃的な出来事で始まって、自身が生まれる前の両親の出会いから、生まれて程なくして譲られて、捨てられ拾われ売られて巻き起こっていく犬生を、マロナの一人称で振り返りみせて行く。
とても賢く人の感情をも嗅ぎ取るマロナ。
幸せは苦しみの休息とか悲しすぎる。
決してみんな愛情がなかった訳ではないのに…。
本人的には幸せな時もあったのかも知れないけれど、人間の身勝手さに振り回され続けた、優しさと悲しさが表裏一体となった物語が切なかった。
忘れられない
人への愛情が命綱である、小さな犬の目線で展開する世界。
手描きの幻想的な世界が美しくて美しくて、あっというまに引き込まれてしまうけれど、犬の一生は出会う人々に翻弄され続け、愛情に満ちた至福の時間はいつも長くは続かない。
私は犬好きなので犬が常に家族の中に居て、犬が少しでも不幸になるのを見るのは耐えられない。そんな人は多いと思う。でも、それにも増して、真に純粋な魂だけが見る事ができる世界の美しさに圧倒される感動がここにあり、1度観ると忘れられない。できればVRか何かでマロナの世界をどっぷり体感したい。切なくて痛い思いもするのだけど。
無条件の愛
圧倒された。そのアートに・・・。
映画館の大画面で観ることができて(@東京国際映画際)、本当に良かった。
邦題は、内容に必ずしも合っているとは思えないが、原題がそうなのだから仕方ない。
言語はフランス語だが、監督はルーマニア人女性で、アニメのみならず実写系まで手がける、すでに国際的にも有名な人らしい。
ストーリーは、主人公の一人称で語られる。
シンプルだが深みがあり、犬好きの人は、きっと感涙だろう。
主人公は、サバサバしている性格のわりには、いじらしい女の子(犬)。
“無条件の愛”を飼い主に捧げるが、飼い主の方は、いろんな事情で必ずしもそれに応えられない。
自分としては、「9」、アナ、サラ、マローナと、飼い主が変わるたびに名前も変わるという、その運命の“はかなさ”に心打たれた。主人公は、実は必ずしも“マローナ”ではないのだ。
ただ、なんといっても素晴らしいのは、アートだ。
目もくらむ、豊かなグラフィック。
線はうごめき、形は自在に変化して動き回る。特に、アクロバットのマノロの描写は圧巻。
動く人物(と犬)は、コンピューターで描いていると思うが、それだけではなく、背景では水彩やパステルなど、様々なリアルな画材もたくさん使っているはず。
さまざまな要素が、多層のレイヤーをなして重なり合い、拡張・収縮し、回転・傾斜し、ある時は3D空間を構成する。
本作品は、基本的に2Dの“動く絵本”であるが、それゆえに突然、ラストシーンで明示的に使われた3D空間は、目が慣れていないだけに、ストーリーとも合致して迫力を生んでいる。
そういうグラフィック上の、仕掛けとアイデアに満ちた作品だ。
短編ならこの種の作品はいくらでもあるだろうし、パーツの使い回しも多いのだが、それでも、このクオリティで長編1本を作ってしまうというのは、並大抵のこととは思われない。
グラフィックの複雑さの一因は、いろんなアーティストがからんでいるためと思われる。
制作は、ルーマニア、フランス、ベルギーの3社の合作である。
キャラクターデザインは「ブレヒト・イーヴンス(Brecht Evens)」、背景は「ジーナ・トルステンソン(Gina Thorstensen)」と「サラ・マゼッティ(Sarah Mazzetti)」とのこと。
自分は全く知らなかったが、慌てて調べてみると、知る人ぞ知る作家のようだ。
イーヴンスは、水彩を使って画面一杯に色数を尽くして描く作家のようで、何冊もグラフィックノベルが出ている。
トルステンソンは、自分は現段階で、イーヴンスとの絵柄の区別はついていないが、この人の絵とアイデアが、美術の基調を決めている気がする。
マゼッティは、2019年ボローニャ国際児童図書展で、新しいタレントとして賞を取ったほどの実力者らしい。面白く顔が変化する、イシュトヴァンの母親は、この人の造形ではないだろうか。
とんでもないレベルの、モーション・グラフィックスの世界。
絵は“絵空事”、その絵空事だからなしえることを、一つの究極まで追い求めた作品だ。
ともかく、圧倒された。
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