劇場公開日 2020年8月29日

「マロナの円環」マロナの幻想的な物語り つくねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0マロナの円環

2020年9月8日
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面白かったと、たった今観終えた映画を振り返るが、それで終わり。数時間後には観たこともわすれてしまう映画がある。
マロナの幻想的な物語は、そんな映画の対極にある。いまでも、何週間も前に観たこの映画のシーンが、まるで実際に自分が体験した過去の思い出であるかのように甦る。なぜ全体が絵画で作られた、それも抽象絵画で描かれた映画なのに、日々の刹那に、犬の一生、犬と関係した人たち、犬の生きた街・空・野原が繰返し思い浮かぶのだろう。
この映画のはじまりでマロナは、車が疾走するたびに消えゆく、
路上に描かれた一枚の「絵」であることが明かされる。マロナは、傍らに寄り添うソランジュに抱かれて、自分が生きて記憶している、その瞬間瞬間に感じた感情を、音を、色を、匂いを語りはじめる。
それがこの映画。
その回想は、私達から見ると抽象的にしか見えない。でも犬にとってはそのようにしかみえない、自然そのままの姿。
伸び縮みする曲芸師マレーノも、透明な人物も、顔がシワに陥没する神経を病んだイシュトバンの母親も、宙に突如現れる星も、意地悪なオレンジネコも…。
映画の中で私は、ソランジュとなって、犬にしか感じることのできない景色を見る。そしてそれが極彩色に彩られ祝祭に満ち溢れていることに胸がうたれる。

つくね