「この映画の主役は誰ですか?」劇場版「鬼滅の刃」無限列車編 ジャワカレー澤田さんの映画レビュー(感想・評価)
この映画の主役は誰ですか?
探偵小説でやってはいけないこと。それは物語の中盤にようやく現れた人物が真犯人、という手法です。
この映画のハイライトは、煉獄さんと猗窩座の一騎討ち。それなのにポスターには炭治郎と魘夢が向かい合った状態でデカデカと描かれてるってどういうわけなんでしょうか?
原作通りだというのは分かりますが、これは映画です。1回観るのに1800円払ってるんです。原作を読んでないお客さんもたくさんいるはずです。だからこそ、猗窩座を「物語中盤以降に突然出てきた真犯人」のように扱うべきじゃありませんでした。
この作品の評価点は、「もしかしたら煉獄さんが猗窩座に勝つ!?」と一瞬でもお客さんに思わせた点です。そのあたりの演出というか、煉獄さんがギリギリまで力を振り絞ったという描写はちゃんとできていました。
そうであるなら、尺の冒頭から猗窩座の異常な強さを見せつけるシーンがなくてはいけません。たとえば、抜刀したモブ隊員を十数人まとめて惨殺するとか。レイティングの問題でそれが難しいとしても、彼の強さを強調する手段は他にあるでしょう。もう一度書きますが、これは映画なんですから何から何まで原作に忠実である必要はありません。
つまり、焦点を「煉獄さんと猗窩座」にのみ絞るべきでした。魘夢なんて、ただのチョイ役です。そもそも彼は、他人の夢即ち回想シーンを使わないと30分も持たないような悪役。情けなさでは『クリフハンガー』の武装強盗団といい勝負です。
ならば魘夢をもっとエグイ悪役として描くか(つまり魘夢が人間を殺害しているシーンを描くか)、或いはそんな弱っちい奴のシーンなんか削って猗窩座をもっと登場させるべきか。いずれにせよ、この作品を観たら「誰がボスなの?」という疑問が浮かんできてしまいます。
これは『トップガン』に近い作品です。
『トップガン』は最後の空中戦の場面だけが素晴らしい出来で、シナリオ自体は当時の風潮を反映して本当に薄っぺらい。残念ですが、『無限列車編』もこのような感じの作品になってしまいました。
しつこいようですが、何から何まで原作に忠実である必要はありません。