「『鬼滅の刃』という個人的に苦手なジャンルに付けられる最高得点です」劇場版「鬼滅の刃」無限列車編 わたろーさんの映画レビュー(感想・評価)
『鬼滅の刃』という個人的に苦手なジャンルに付けられる最高得点です
漫画未読です。これからも絶対漫画は読まない、映像と声優の力に痺れて生きていこうと決めた映画体験でした。
そもそも鬼滅の刃というジャンルと自分の好きなアニメ観、映画観、物語観とは非常に相性が悪いです。まず、王道冒険物が苦手ということ、クサいセリフが苦手ということ、映画ハリーポッターの後半に特に思った「魔法使うならちゃんと魔法の名前を唱えろよ」問題と向き合わざるを得ないところなどなど、アニメも楽しみつつも『そこまで騒がれるほどか?』という認識でした。特に、作品の中に良い意味での"考えさせるための余白"を求める自分にとって、何でもかんでもセリフで説明してしまうところが決定的に自分と合いません。
それでも「鬼滅の刃」という作品に惹かれてしまう最大の理由が"呼吸"にスポットライトをあてていることです。アニメの前半から、『自己決定することの大切さ』を謳っており、それは『生殺与奪の権を他人に握らせるな』という言葉に象徴されていると思います。そこに生きていれば自然に行う呼吸すらも自発的にどう行うかを決める"全集中"が絡んでくるところが凄く凄く興味深いなと思っています。
映画も自分と合わない点はやっぱり合いません。これはこの作品の作家性なのでここはもう良いと思います。ただ、本作は特に善逸のセリフが野暮にしか働いてないところが残念でした。主人公や煉獄さん、敵キャラが語ってしまうのはまだ理解できるとして、善逸が語る内容が補完ではなく過剰説明になってて「そこは言わなくても良いよなあ」と思わざるを得ません。特にラストシーンは。死がどうこうとか涙がどうこうとか言わずとも十分説明できてるだろうと、いわんや戦いに参加すらしてないキャラクターなのに…とムズムズしました。
自分の苦手なところに目を瞑れば、ほぼ完璧な作品だったと思います。終盤は涙なしでは見られませんでした。
オープニングのお墓のカット、そこから電車のカット、タイトルが出るまでの写し方、その全ての手際の良さと作画の美しさに序盤からお見事と唸っていました。
今まで後追いでアニメを見ていたので、スマホやテレビ画面で楽しんできた分、「映画でやる必要ある?」という疑念を吹き飛ばす、圧倒的な映像の美しさと音楽のメリハリ。映画館でこそ見るべき作品に仕上げていました。
常に目を見開いていた感情がどこにあるのか分からないキャラクターのラストカット、号泣必至です。エンドロールも切なさを倍増させて良かったです。
アニメを見ていないと設定を飲み込むのが難しいところはあると思うけれど、そこはもう割り切って如何に世界観に没入させていくかに挑戦した意欲も買いたいです。とはいえアニメは見ておきたいところです。
映画が終わったあと、「どうなるかは分かっているのにな…」と涙しているおそらく原作を読み込んでいるであろう方の声を聞きました。
今後テレビなのか映画で進めていくのか分かりませんが、引き続き楽しみになる一本だったし、コロナ禍の映画館を救うに相応しい出来の映画だと思いました。