「【”どのような境遇でも人は夢を抱ける。”今作は不慮の事故で半身不随になった中年男と、彼が雇ったフィリピン人家政婦の関係性の変遷と、お互いに相手の夢を叶えようとする姿が素敵な作品である。】」淪落の人 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”どのような境遇でも人は夢を抱ける。”今作は不慮の事故で半身不随になった中年男と、彼が雇ったフィリピン人家政婦の関係性の変遷と、お互いに相手の夢を叶えようとする姿が素敵な作品である。】
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・今作で、不慮の事故で半身不随になってしまい、妻と別れ、カナダに留学している一人息子の成長だけが楽しみの中年男チョンウィンを演じた香港を代表する名優、アンソニー・ウォンは、ご存じのように香港ノワールの傑作「インファナル・アフェア」シリーズでのウォン警視役が直ぐに頭に浮かぶが、コメディや猟奇犯罪モノまで幅広い役で知られている方である。
今作のアンソニー・ウォンの癖あるオジサンから徐々にフィリピン人家政婦・エヴリンの心優しく真面目な姿に心絆され優しい表情になって行く演技は、彼の方のキャリアを重ねた所から産まれたのかな、と思ってしまった程、素晴らしい。
・又、そのエヴリンを演じたクリセル・コンサンジの映画出演は初だが、演劇で磨いたと思われる喜怒哀楽の表情もとても良いのである。
・エヴリンの友人達のフィリピン人女性達が、出稼ぎに来た異国の香港で愚痴をこぼしながらも逞しく生きる姿が、随所で描かれている所も作品に趣を与えていると思う。
・更に言えば、チョンウィンの若き友人のフェイを演じたサム・リーも、”ピンポン”で尖った中国人卓球選手コン・ウェンガを演じた姿から、年を重ね柔和で情に厚い男を好演していると思う。
■何よりも、この作品が後半、ドンドン魅力に溢れてくるのはチョンウィンがエヴリンの写真家になりたいという夢を叶えさせようと、秘密裏に色々と頑張る姿と、エヴリンもチョンウィンの、大学を卒業した息子に会いたいと願う夢を叶えて上げようとする、善性溢れる姿である。
又、この映画は些細な出来事を前半、丁寧に積み上げて後半、一つ一つ回収していくストーリー展開も又、良いのである。
<今作のラストも印象的である。チョンウィンの頑張りでエヴリンが夢を叶える為に旅立つ姿を嬉しそうに、そして少し寂しそうに手を小さく振って見送る彼の姿も、観ていると涙が出そうになってしまいそうになったからである。
今作を監督したオリバー・チャンはナント今作が初監督らしいのだが、自らが書き下ろしたオリジナル脚本の完成度も非情に高くて驚いた作品でもある。>