劇場公開日 2020年2月1日

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「やさしい人びと」淪落の人 andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0やさしい人びと

2020年1月15日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:試写会

みんながやさしい、しあわせ映画。
淪落というのは「落ちぶれる」という意味だそうだ。大阪アジアン映画祭での邦題は「みじめな人」。
最初に映るアンソニー・ウォンの表情は無だ。まさに何もない人。虚無。
そして彼の元にやってくるフィリピン人家政婦のエブリンも、傷つき、疲れている。
「みじめな人びと」であり、そして言葉も通じ合わないふたりが徐々に心を通じ合わせていく様が、四季を通して描かれる。
ただただ皆やさしい。怖い顔したアンソニー・ウォンは、面倒見がよい親方で、限りなくやさしい父親。事故の絶望が覆い隠していた彼の本質が顕になってゆくのが、観ていて嬉しい。
そしてエブリンは、自分の境遇に負けない人。闘う人。そしてまた彼女も、傷つきながらも限りなくやさしい。
やさしさとやさしさを足すと、もっとやさしさが生まれる。彼は彼女の夢を助けることを、自分の夢とする。そして彼女はそれに応えようとする。
勿論、厳しく悲しいエピソードもたくさんある。でもそれもやさしい。フィリピン人家政婦さんコミュ二ティの段ボール上オフ会。「あくまで仕事」と割り切っていた筈なのに、雇い主が亡くなって号泣するフィリピン人友だち。喫緊のお金の為にエブリンがしてしまったこと。それを許し、彼女の母親に啖呵をきるチョンウォン。
ツンにしか見えない妹もやさしいし、やさしい父親が育てた息子は、離れていても、新しい家族が居てもちゃんと息子。
そして忘れてはいけない、いちばんの隠れやさしい男、サム・リー演じるファイ。スープ作ったり、一緒にAVマラソンしたり、話し相手になって。彼が実のところダントツにやさしい。彼のやさしさが報われた、というのも変だけど、でもやっぱり報われてよかったなあと思う。
綺麗すぎるのかもしれないけれど、でもやっぱりこういう「やさしい世界」を信じてみたいなあと思う。厳しい世界を見るのも大事だけれど、やさしい世界を見ると、自分もやさしくなりたくなる。
カット割りが綺麗で、美を見せつけない、あくまでさりげない構図の美をあちこちのシーンで感じた。
ノーギャラで出演したという、アンソニー・ウォンのすべてが素晴らしかったですね。表情といい抑揚といい。彼こそがやさしい世界の表現者。

andhyphen
よしべーさんのコメント
2020年3月3日

香港製造 の映画の時の街のヤンキー小僧を演じたサムリー、今はこんな役もこなすんだなーと感慨深く鑑賞しました。
愛を感じる映画でした。

よしべー
CBさんのコメント
2020年2月28日

> 忘れてはいけない、いちばんの隠れやさしい男、サム・リー演じるファイ

同感です!書き忘れているけれど…恥ずか!
みんながいい演技をすると、いい映画ができるって、素晴らしいです!

CB