「客に見せない人間模様の舞台裏の物語。」タイトル、拒絶 松王○さんの映画レビュー(感想・評価)
客に見せない人間模様の舞台裏の物語。
物語の設定と何か刺激的な感じが気になって作品。
性風俗を題材にした作品って、個人的には結構ソソるんですがw、好みな感じもあって楽しみにしてました。
上映館の「新宿シネマカリテ」は平日なのに満員。
人を惹き付ける何かがある作品かと思い、期待して観賞しました。
で、感想は言うと…不思議な作品。
オープニングから外で上半身ブラだけの伊藤沙莉さんが「悪質なポン引き、娼婦が増えています。」と言った看板との対比が面白い。
頭からガツンと咬ましてくる様な迫力があります。
ストーリーもある様で無い様な感じで、デリヘルの待機場所での人間模様を描いてますが、これが結構ドロドロw
赤裸々な人間ドラマをもっと期待してましたが、何処かスカされる様な所もあり、それでいて結構生々しくて、重いし疲れる。
人の心の思いの丈を聞くのって、結構大変と言うか、エネルギーを吸い取られる感じ。
この作品はそんな感じのパワーはあるんですが、強い何かを持っているけど、まとまりが無いと言えばまとまってない。
言いたい事はそれぞれにあるけど、それは大きなメッセージと言うよりも愚痴と言うか、今の現状を吐き出さずにはいられない嘔吐の様なモノと言う感じ。
互いを罵りあう。もしくは互いをさげずみあい、不満を吐露する。
かと思えば、軽くバリアをかけて、適度な距離を取り、心の殻を籠る。
それぞれがそれぞれに心の傷を自身で舐め合う。
群像劇らしいと言えば、そんなんだが何処かアンニュイなんですよね。
そのアンニュイが合うか合わないかが、結構重要で一度すれ違いを感じたら、最後までその違和感が拭えないんですよね。
また、あらすじの紹介で「ある日、モデルのような体型の若い女が入店したことをきっかけに、店内での人間関係やそれぞれの人生背景が崩れはじめる。」と言うのがあるんですが、…分からん。それが誰だったか個人的には全然分かんないんですよね。
そもそも、最初から崩れている様な人間関係に見えるし、誰が引き金になったかが解り難い。全員が主人公の様でいて、全員がモブの様な感じにも映るし。
群像劇のダメな部分が出ちゃっている感じです。
監督の山田佳奈さんは劇団□字ック(ろじック)主催で個人的には本谷有希子さんと同じ様な匂いがします。
演劇と映画は似て非なる物な感じなので、演劇の要素を映画に持っていくと結構しっちゃかめっちゃかになる事もありますが、この作品もそんな感じに映るんですよね。
主人公は一応伊藤沙莉さん演じるカノウですが、他にもクセの強い面々が一杯。
その中でヒロイン的なのが恒松祐里さん演じるマヒルですが、何処に焦点が当たっているかが正直微妙。
群像劇なので焦点と言うのもおかしいのかも知れませんが、そこがとっ散らかってる感じで惜しいんですよね。
カノウをストーリーテラーにして、それぞれのエピソードでデリヘル嬢の面々とこれまたアクの強い店舗スタッフを紹介していればもっとまとまったかな?と思うのですが、如何でしょうか?
偏見ではないんですが、何処か人生の辛酸を舐めている人の話って深くて面白いんですよね。その人そのものがエンターテイメントと言うか。
それを野次馬根性的に見るのはやっぱり刺激的でw、「苦労は買ってでもしろ」と言いますが、出来れば買いたくないけど、でも肥やしになるのは確かで、もっと言うと酒の肴になるw
だから面白そうな面々が多いだけにもっと掘り下げても良かったかなと思うと惜しいです。
カノウなんか面白いんですよね。可愛く見える様でブサイクにも映るしw
デリヘル嬢と初営業の際に客から逃げたのとか凄く面白い感じなるシチュエーションなんですよね。また伊藤沙莉さんのハスキーボイスが良い感じで場末感を醸し出していますw
伊藤沙莉さんは先日観た「ホテルローヤル」でも出演されていて、気になる感じの女優さん。
楽しみな存在です。
マヒルの言動は抜けている様で真理を突いている感じで面白い。
トラブルの元凶になるアツコ役の佐津川愛美さんは「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」の頃と全然違っているのでビックリ。
マヒルの妹役のモトーラ世理奈さんは結構勿体無い使い方。
その分、マヒルが際立って見えるんですよね。
話の中軸をもっとカノウに持っていくか、もしくはマヒルに焦点を当てても面白いのに…と思えるし、残念な部分がやっぱりある。
ラストのビルの屋上から佇むマヒルのセリフや雰囲気は何処か諦めの気持ちや達観した感じでデリヘルに勤める女の子っぽくてリアルで良い。
いろんな気持ちを感情豊かに吐露するのも、何処か冷めた様な感じでいるのも今の女の子の偽らざる気持ちなんでしょうね。
そんな良い物があるのでやっぱり惜しい。
でも、観ないと始まらないし、観た事で感じる事も多々ある。
「自分はウサギではなくタヌキ。」と何処か客観的に物事を見ているカノウにも、性交渉を何処か達観しているマヒルにも、イライラしながら他人にマウントを取って自身を保っているアツコにも、店長にも、皆に味がある。
でも、なんか引っ掛かってもスカされる様な感じの作品。
ちょっと不思議な作品の感じです。